後楽園ホールの幽霊（１）

　私はボクシングやプロレスが苦手で、興味も持てませんでした。『あしたのジョー』も『キン肉マン』も『はじめの一歩』も殆ど読んでいません。
　小学生の頃、母がＴＶ中継を見ていて、私にはチャンネル権はなかった（当時は決まった番組しか視聴させてもらえなかった）から、一緒に見たことも何度かあるのですが、あれは専業主婦の鬱憤晴らしだったのでしょうか。だから選手たちのことも、試合ではないところで露出のある人のことは知っていますが、試合にしか出ない人は（ＴＶ中継されたり新聞やニュース番組で取り上げられていても）分からないのです。ですから、現役時代の記憶は全くなく、引退後に物真似芸人その他の影響で認識したと云う人も少なくありません。
　小学生の頃、たまに同級生と喧嘩しても、毎度後ろに回り込んで、相手の腕を上半身ごと箍を嵌めるようにして働けなくさせて、相手の尻に連続膝蹴りを、相手が参ったと言うまでカマす、と云うパターンで切り抜けて来ましたから、全身、特に腕を用いて闘った経験は殆どなく、プロレス技を掛けられたこともなければ、掛けたこともないのです。――私が低学年の頃まで兄弟喧嘩をよくやりましたが、それも技を掛けるような按配ではありませんでした。兄が格闘技をどう思っていたのかは知りません。父は格闘技が好きではないらしく、過去の武勇伝も聞いたことがありません。
　それはともかく、今回も昨日と同様に石丸元章『ウワサを追いこせ！ 』から怪談を拾って置くこととしましょう。
　118〜124頁「1988年4月」、1頁め（118頁）右下の「kongetsu-no　UWASA Best 10」では「７」位、見出しは「世界チャンピオン井岡の育ての親エディさんの幽霊でる。／(報告＝Ｐまどろす)」2行めは左寄せ。「Ｐ」は、9月26日付「石丸元章『ウワサを追いこせ！』（３）」に引いた8頁下段の注記にあった「まるぴー」なのですが、再現しづらいので○を省略しました。以下同じ。
　123頁中段16行め〜124頁上段5行め、最初の2行の最上部3字分に□に「７」とあって、

現在日本唯一のボクシング世界チャ／ンピオンの井岡弘樹を育てた名トレ／ーナー、エディさんが亡くなってしまった／が、そのエディさんの亡霊が後楽園ホール／のトイレに出る、とボクシングファンの間／では有名らしい。報告はＰ井岡ハッピー。／‥‥

と、何故か報告者のペンネームが見出しとは異なっています。続いて石丸氏のコメントがあって、124頁にはボクシング関係の報告が2つ取り上げられています。223〜220頁「総索引」の「あ」行68項目（223頁左〜右24行め）の、40項めに「井岡の育ての親エディさんのおばけ出る ……１２３ *1」とあります。
　ボクシング世界チャンピオンの井岡、と云われても、無関心な私には先頃引退を撤回した井岡一翔（1989.3.24生）しか思い浮かびません*2が、井岡弘樹（1969.1.8生）は一翔の父の弟（叔父）で、WBC世界ミニマム級王者（1987.10.18〜1988.11.13）でした。そしてエディさんと云うのは Eddie Townsend（1914.10.4〜1988.2.1）で、井岡弘樹の初防衛戦勝利の翌日に死去していますが、試合が行われたのは大阪城ホールで入院していたのも大阪の病院でした。
　すなわち、エディさんが死去したのが雑誌発行日の丁度2ヶ月前、9月26日付「石丸元章『ウワサを追いこせ！』（３）」に見たように、これも入稿直前に届いた噂報告と云うことになりそうです。――しかし、満更何もないような話でもなくて、未見ですが Google の書籍検索でヒットするエディ・タウンゼントの伝記に、後楽園ホールではないのですが幽霊についての記述があるのです。
山本茂『エディ ６人の世界チャンピオンを育てた男』

エディ

・ＰＨＰ文庫

エディ―6人の世界チャンピオンを育てた男 (PHP文庫)

　「平成四年九月二十日」付の「文庫版のためのあとがき」に、

　グリーンツダジムの井岡や若いボクサーたちは合宿キャンプのたびに「エディさんの幽霊に会った」と屈託なく笑う。／今でもエディさんはぼくらのところにやってきて心配してくれる、と言うのである。無神論者の私にはにわかに信じられ／ないが、そうした話のはしばしに少年たちとの強い絆を思い知るのだった。

との一節があります。いづれ現物を見て頁その他補足したいと思っています。
　山本茂（1937生）は毎日新聞社出身のノンフィクション作家で、私は当ブログを始める以前、『物語の女』と云う本の初出・単行本・文庫版の比較を試みたことがあって、早速当ブログでも取り上げようと思いつつそのままになっていたことを思い出しました。（以下続稿）

*1:リーダは合計5点。

*2:と云うか「一翔」をどう読むのかが分からない。