瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤いマント(281)

五木寛之の赤マント(9)
 昨日の続きで、五木寛之『人生の目的』の5章め「わが人生の絆」に見える、五木氏の朝鮮時代、特に小学校についての記述を確認して置こう。
 まづ1節め「人生の絆」だが、3項め、165~167頁7行め「小学校の教師だった父と母」は父の出身から五木氏の誕生まで。そして4項め、167頁8行め~170頁9行め「郷里を離れ、野心にみちて朝鮮半島」に、京城の南大門小学校の教師になるまでが述べてある。
 10月13日付(278)に見たところと重なる、父が出世のため苦学力行して、夜中にも「文検とか専検とか」の勉強をしていたこと(169頁5~13行め)や、母がヌクテの遠吠えを嫌っていたこと(169頁9行め~170頁2行め)などは(詳しくなっているところもあれば簡単になっているところもあるが)割愛して、気になったところだけを抜いて置こう。168頁12~15行め、

 最初に赴任したのは、日本人の家族といえば、そこの駐在所のおまわりさんの家族と私/たち家族だけで、あとは全部、地元の人たちという、寒村*1といっていいような、そういう/場所でした。普通学校という、つまり日本人がひとりもいない、当時の朝鮮人だけの小学/校の校長として、まだ二十代の父が赴任したわけです。


 10月13日付(278)に引いた五木寛之『わが人生の歌がたり』第一部『昭和の哀歓』と同様に、寒村を朝鮮での最初の赴任場所としている。
 こうした、寒村での努力の結果、170頁4~9行め、

 そして、ある日、たくさんの祝電が家にとどいて、そういういくつかの試験にひとつひ/とつ合格していった末に、父はもうちょっと大きな街の小学校へ移り、さらにもう少し大/きな街の学校へ移り、というふうにして、私が小学校に入る直前には、現在のソウル、当/時は京城と呼んでおりましたけれども、その街の南大門小学校という、小学校としては名/門なのでしょう、その小学校の教師として、あこがれの大都市へ赴任することになるわけ/です。*2


 ここは、10月17日付(279)に見た『昭和の哀歓』が、寒村から検定試験に合格して、一足飛びに南大門小学校の教師になったように読めるのとは、大いに異なっている。
 平壌に移った時期については、171頁5~7行め、

 やがてソウルの小学校の教師から、こんどは、現在の平壌*3、当時は平壌*4といっておりま/したが、そこの師範学校の高等部の教員として赴任することになりました。私が小学校の/三年ぐらいのときだったんじゃないかと思います。

とあって、ここは昭和16年(1941)平壌で「開戦」を迎えたように書いてある『昭和の哀歓』と合致するようである。
 次に2節め「学校の絆」だが、1項め、199~203頁6行め「転校生という烙印を背負って*5」は五木氏の、199頁3~4行め「ひとつの場所に自分の家を持って/安住*6するということが出来ない性格」について、次のように説明するところから始めている。199頁10行め~200頁10行め、

‥‥、ひょっとしたら父の職業と自分の育った環境に深いかかわりがあるんじ/ゃないか、と思うようになりました。
 というのは、前夜も話しましたけれども、父が学校の教師をつとめており、いろんな職/【199】場を転々とし、そのつど、教師の子である私自身も街*7から街へ、というかたちで移動する/わけです。小学校にはいったのが現在のソウル、当時は京城*8といいました。京城の街では/じめて小学校へ入学し、そこも二度ほど転校したような記憶があります。そのあと父親の/勤め先がかわり、平壌*9、当時の平壌*10という街へ移りましたが、そこでもなぜか二度転校し/ました。ですから、小学校を四度かわっているわけなんですね。そして、あいだに敗戦を/はさみ、中学校も三回かわっております。
 こうしてみると、子供のころに転校生というひとつの烙印*11を背負ってすごしたことが、/その後の自分の生きかたに大きな影響を与えているんじゃないか、というふうに思います。/住んでいた家も当然、社宅とか官舎とか、当時の公舎ですから自分の家ではありません。/仮*12に住まわせてもらっていただけの家でした。


 ラジオ放送原稿もしくは速記なので「前夜」云々とある訳だが、ここで「小学校を四度かわっている」と言っている。京城で2校、平壌で2校、合計4校に通った、と云うことらしい。但し4校とも校名を挙げていない。後年の同じラジオ深夜便に基づく『昭和の哀歓』では、平壌の2校は学校名を挙げているのだけれども、京城で小学校に入学したことも明確には述べておらず、かつ校名も述べておらず、そして2年の在住期間のうちに転校したことにも触れていなかった。(以下続稿)

*1:ルビ「かんそん」。

*2:ルビ「/うつ/はい/けいじよう//」。

*3:ルビ「ピヨンヤン」

*4:ルビ「へいじよう」。

*5:ルビ「らくいん」。

*6:ルビ「あんじゆう」。

*7:ルビ「まち」。

*8:ルビ「けいじよう」。

*9:ルビ「ピヨンヤン」

*10:ルビ「へいじよう」。

*11:ルビ「らくいん」。

*12:ルビ「かり」。