瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

ビートたけし『たけしくん、ハイ!』(28)

銀河テレビ小説たけしくんハイ!」シナリオとの異同(21)
 昨日の続き。
・第8回(2)借金
 TVドラマでは、前回見た英一郎(趙方豪)が家を出て下宿する話を母・真利子(木の実ナナ)と祖母・菊(千石規子)に切り出すシーンに次いで、たけし(小磯勝弥)が健一(浅野雅博)とキャッチボールをする場面があって、その次は松原組の座敷で、真利子が棟梁の松原源治(金田龍之介)に3500円貸してもらう場面になっていた。
 そこでの松原源治の話に、103頁下段19行め~104頁上段3行め、

源 治「いや、竹さんがさあ、アメリカが何とかで、/ 輸出だからどうとかでって、とにかく何の事なん/【103】 だか、話ばかりでかくてさ。悪いけど、はっきりし/ ねえ話に金は出さねえって断ったんだよ。そしたら、/ いきなり〝借りねえや〟って怒っちゃってね。」

とあるのだが、『シナリオ』にはこの前にTVドラマにはない、借金を断られて帰って来た竹次郎(林隆三)に代わって、真利子が出掛けて行く場面があった。103頁上段~下段5行め、

●西野家(夕)

  外は暗くなっている。
  内職をしている真利子と菊。
  ガラッと戸を開けて帰って来る竹次郎。すこぶ/  る御機嫌斜めである。
竹次郎「酒だ
真利子「どうしたのよ。」
竹次郎「いいな、もう向かいとつき合うんじゃねえ/ ぞ くそったれ
菊  「何やったんだい、竹次郎。」
竹次郎「棟梁*1があんなにケチな人間たァ思ってもみ/ なかったよ。俺がよォ、頭下げて、三千五百円貸し/ て貰いてえと言ったら〝貸せねえな〟これだよ。し/ っかり訳を話しても〝駄目だ〟ってぬかしやがっ/ て。これからは顔合わせたって、あいさつなんかす/ るなよ
真利子「仕様がないわねえ。(真利子、出て行く。)」
竹次郎「どこに行くんだ?」
真利子「棟梁の所。」
竹次郎「真利子」【103上】
菊  「およしよ。」
竹次郎「酒だ
菊  「ないよ。」
竹次郎「何ィ? どいつもこいつも俺に逆らいやが/ って。(台所に行くと酒びんからラッパ飲み。)」


 1月23日付(26)に見た第7回の『シナリオ』、TVドラマでは省略された竹次郎との会話で、真利子は「借金してでも作るしかないから。大丈夫、心配しないで。」と言っていた。そこでは期限となる、西野家に次に古田がやって来る日は「あさって」と云うことになっていた。そうすると、――その日一日、真利子は幾つか当たって見たものの金策は上手く行かず、そして翌日であるこの日はもう前日、このままでは結局今度も、既にかなりの額の借金があるので遠慮していたけれども、棟梁を頼らざるを得なくなるのかねぇ、と話すのを仕事に出る前に聞いた竹次郎が、やっぱり幾ら偉そうにしていても女じゃ間に合わねえんだ、俺が棟梁に掛け合ってやろう、とばかりに、帰り掛けに松原組に立ち寄って借金を申し込んだ、と云う前段が想像出来そうである。
 しかし、続きを読むと、古田は次の日曜の午後に、予告もなしに急に訪ねて来たらしいのである。それがどうやら「あさって」よりも後のことらしいのである。――西野家が電話を松原組の呼出しにしているように、まだ固定電話がほぼ全ての家庭に普及している時代ではないから、連絡もなしに現れなかったり、その反対でたまたま用事で近くに来たから、とか、予定が変わったから、とか言って現れたり、そんなことが普通に起こる時代だったのだけれども、どうもこの辺りの日数の計算が『シナリオ』では好い加減になっているような印象を受けるのだ。
 そこでTVドラマでは、第7回の「あさって」との発言を削り、さらに真利子が責任を持って金策を担当する旨の発言も削除した。もし、これらの発言が残っていたら、竹次郎が真利子に断りもせずに松原組に借金を頼みに行ってしまったのには、少々違和感を覚えざるを得ないところである。しかしこれらの発言がなければ、真利子が然して慌ててもいないことや、竹次郎が金策に動いていることについて、違和感を覚えなくても済む。
 とにかくこの、竹次郎が棟梁に断られて帰って来る場面は、その後の棟梁の発言(及びここには引かなかったがその前の真利子との会話)で察しが付くので、省いて正解だったろう。
 さて、自分が断られた直後に、真利子が事もなげに3500円借りて来たので竹次郎は不愉快である。そこで飲みながら嫌味を言うのだが、104頁下段2行め、

竹次郎「面白くねえなあ、もう。(グイと飲む。)」

の一言は、TVドラマでは省かれている。(以下続稿)

*1:ルビ「とうりよう」。