・郷内心瞳『拝み屋念珠怪談』(3)
取材ノートの纏め方については『緋色の女』180頁8行め~181頁9行めに以下のように説明されている。
乗換駅までは四十分近い時間があった。かなりの余裕があるため、鞄*1からメモ書き用/の取材ノートを取りだし、先ほど川野さんから聞いた話の整理を始める。
裕木の取材ノートは、メモ書き用と清書用の二種類があり、取材相手から聞いた話を/書き取る際にはメモ書き用のノートを用いる。
まずは取材相手が話を語るに際して使う生の言葉を可能な限り、取りこぼすことなく/忠実に書き取っていく。そうして、相手の語りがすっかり終わったことが確認できると、/今度は最初にうまく書き取れなかったくだりの穴埋めや細かな疑問点の解消をするため、/失礼のない範囲で質問と確認を繰り返し、さらに怪談としての事実性を補強していく。【180】
斯様*2な工程を踏まえて聞きだし、記録した情報を分かりやすく、簡素な形に整理して/ようやく完成するのが、清書用ノートにまとめられた怪談集である。
取材を始めた頃は勝手が分からず、一話をまとめあげるのも悪戦苦闘の連続だったが、/しだいに自分のスタイルを確立してからは、むしろ楽しい作業になっていた。
だから時間があれば、電車の中でもこうして作業を始めてしまう。
メモ書き用のノートの中から、明らかに必要なしと判断される箇所には二重線を引き、/逆に書き足らないと感じた箇所には、記憶を思い返して適宜情報を補完していく。
そうして、膝の上にのせたノートを矯めつ眇めつ確認しながら、黙々と作業を続けて/三十分近くが経った頃のことである。*3
郷内氏が渡された12冊は「清書用ノートにまとめられた怪談集」の方であろう。それにしても、大変充実した取材であり、記録である。
ところで『緋色の女』と『奈落の女』で頁数が90頁近く違うのは、郷内氏に拠る解説或いは経緯説明的な段が増えたことにも拠るが、『緋色の女』が取材ノート5冊分、『奈落の女』は6冊め以下7冊分のリライトであることにも拠る。
この「ノート」は前回引いた『緋色の女』11頁16行めにあったように「大学ノート」なのだが、それを2冊取り出して膝の上に置いて作業するのは、私も学部生から女子高の講師をしていた頃まで、たまにやっていたことなので、なかなか大変じゃないかと思っていたのだが、『奈落の女』の182頁5行めに、
ノートはB7サイズの小さなメモ帳のため、‥‥
とある。――文庫本(A6判)よりも一回り小さいB7判であれば2冊を膝の上に縦に並べることも出来るだろう。逆に開いたままにするのが大変そうだが、まぁ慣れた作業みたいだから何かしらの工夫で解消していたのだろう。――この辺りでは9冊めで、9冊全てを持ち歩いて過去に聞いた話と照合したりしている。
しかし、若干、後出しの、追加設定のように感じられなくもない。