瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

近藤ようこ『説経 小栗判官』(1)

 研究生活にあった頃、必要があって説経についても何となく調べたのだが、この漫画を読んで初めて感動したのである。もちろん、部分部分はよく覚えていた。――覚えていたのだけれども、如何に必要に迫られて心を動かすことなく読んでいたか、反省させられたのだった。原典に忠実なこの漫画で初めて、説経が人の心を動かした理由を理解したのであった。そして、衰退した理由も……。
①単行本(JETS COMICS 136)白泉社・198頁・A5判並製本*1

説経小栗判官 (Jets comics (136))

説経小栗判官 (Jets comics (136))

・平成二年五月一日初版発行・平成六年五月十五日第三刷発行・定価八五七円
②文庫版(ちくま文庫筑摩書房・203頁
説経小栗判官 (ちくま文庫)

説経小栗判官 (ちくま文庫)

・二〇〇三年一月八日第一刷発行・定価600円
③新装版(ビームコミックス)エンターブレインKADOKAWA)・四六判並製本 新装版は未見。なか見!検索でカバー表紙と、本体の1〜18頁が閲覧出来る。
 標題の表記は以下に述べるように様々である。
 まず単行本のカバーから確認して置こう。
 カバー表紙、単行本は最上部に横組みで「JETS COMICS」とあり、その下に赤の毛筆で北斗七星と3画の富士山。その富士山を枠に使用して秀英初号明朝の縦組み「説経小栗判官近藤ようこ」振仮名「おぐりはんがん」を添える。また「こ」に掛かるように斜めに「近藤/ようこ」の朱文長方印(1.0×0.8cm)。
 カバー全面が一続きの絵になっており、地は草色の和紙で人物や動物はカーキ色で描き着色。下部は海でカーキ色で波を描き薄縹色に着色。人物等は室町時代や江戸時代に作製された社寺参詣曼荼羅風である。大体は「第五章餓鬼阿弥」の128〜133頁から採られているが、新たに描かれたものも混じっている。
 すなわち、作者名の左の槍持ちと編笠を被り腰に箙を付けた騎馬の人物と髭の人物の3人連れ*2は、130頁の左側では後にもう1人背が低い若い男が付いて歩いていた。その上、富士山の稜線上を空に向かって一列に飛翔する3羽の白い鳥は128頁左上から採っている。標題の右の、蕗の葉を左手に持つ全裸の幼児が白犬に吠えられている場面は131頁下右にある。標題の真下の海近くに配されている簑笠の人物は131頁では幼児の右後ろにいた。この人の前を歩いている二本差しに編笠の男と一本差しの従者は、本編には見えないようだ。その上、蕗の傘の幼児の下に描かれる猿曳きと3人の子供も本編には見えない。
 カバー表紙折返しの左端の2人は133頁の左端から採っている。中央やや下、その前を歩く2人の白装束の道者と、その右下、海辺に置かれた牢輿と2人の人足*3は本編には見えない。また、道者のうち左の1人の背後左側に紫雲に乗った青い丸は、裏表紙折返しに同じような紫雲に乗った赤い丸と対応しており*4、本編にはないものである。上部、赤の毛筆の富士山の右半分、山腹の稜線の上に烏。
 カバー背表紙は上部に「説経」落花生の殻のような形の子持枠「小ぐりはんがん」細い枠の内側を白く抜く。その下に作者名、「こ」に掛かるように斜めに「近藤/ようこ」の朱文長方印(1.0×0.8cm)。その下に笠を載せた布を被せた荷を背負った僧形の人物は133頁中央やや左上から採っている。その下に「白泉社」とあり、最下部の波の部分には分類票が貼付されていて文字の有無は不明。なお、本体の背表紙は黒地で、子持枠の内部は白く抜いてあり文字は黒、それ以外は文字は白抜き。印はない。「白泉社」が最下部にある以外はカバー背表紙と同じ位置にある。なお、本体の表紙と裏表紙は(熊野)那智参詣曼荼羅のモノクロ写真を使用しており、裏表紙は文覚が矜羯羅童子制吒迦童子那智滝の滝壺から引き上げられる場面である。
 カバー裏表紙、最上部「雑誌44321-57 ISBN4-592-13136-3 C9979 \857E JTC‐136」。上部に赤の毛筆で3画の富士山と額のない鳥居。富士山の左の稜線に羽ばたく烏。鳥居の下に黒の長方形(3.3×2.1cm)があって、縦組み白抜きで「白泉社  /定価九〇〇円/[本 体 八 五 七 円]」とある。左の、右手を振る上人は130頁から。130頁では上人に並んで土車を見送っていた小僧はカバー裏表紙折返しにいる。上人の背後右にある民家2軒と5〜6本の樹木は128頁の上部、説明を入れた長方形の枠と、「えいさらえい」の掛け声に挟まれた部分を採っている。上人の右、中央から右に掛けて、白犬に追われて、座頭とやはり盲目の従者が逃げる様子が描かれる。なお、132頁に橋を渡る座頭と従者が描かれるが着流しで、袴を付けているカバーの2人とは別人である。右下に綱を引く6人がいて、左端は小僧、右端の裏表紙折返しに入り込んでいるのは上人で、餓鬼阿弥の乗る土車が見えるが、これは128頁中央から採っている。なお、128頁で土車を追い掛ける犬は、カバー表紙の右に暗緑色の犬となって別に何も追っていない。上人の下、海辺に蕗の傘を持った全裸の幼児が2人、座る。海には「南無阿弥陀佛」と書いた白帆を掛けた朱塗りの船が接岸していて、三方に朱塗りの鳥居が3つある*5朱塗りの塀があって、その内には檜皮葺の屋根があるように見える。補陀落渡海の渡海船である。
 カバー裏表紙折返し、右下の潮汲み男は130頁の浜辺から採っている。上部に「日本第一」の額がある朱塗りの鳥居があって上・左寄りに烏が止まっている。既述の小僧はこの鳥居の左下に立っている。右下には白装束の道者が跪いて鳥居の方を向いて合掌している。やはり既述の日輪に紫雲は道者の足を隠すように配されている。海には朱塗りの小舟があって、舳に僧侶と山伏が座り、艫に船頭が立っている。(以下続稿)

*1:2017年6月1日追記】書影が表示出来るようになっていたので補った。

*2:馬の尻から左はカバー表紙折返し。

*3:本編に牢輿が登場するのは「第四章常陸小萩」の89〜93頁、照手殺害を命じられた鬼王・鬼次兄弟が担いでいるが、カバーに描かれている2人とは一致しない。

*4:普通は赤丸が日輪で、対するに黄色の丸で月輪であるはずである。青丸は何を示しているのだろうか。

*5:もう1つあって四方に鳥居があるのだろうが、帆影になっているため見えない。