瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

山本禾太郎『消ゆる女』(2)

 10月5日付(1)の続き。
 山下氏の云う昭和22年(1947)刊『消ゆる女』と、横井氏の挙げる昭和23年(1948)刊『消える女』は、引用されている「あとがき」が一致しますから、同じ作品と思われます。
 全国古書籍商組合連合会のサイト「日本の古本屋」にて検索しますと、以前、2013年4月24日付「山下武『20世紀日本怪異文学誌』(14)」にて、平井呈一『真夜中の檻』の帯付初版本の書影を上げているとて言及した古書店「古書 転蓬」が

消える女 女浪曲師京山秋野伝
¥20,000
山本禾太郎、梅田出版社、昭和23
初版/背・裏表紙イタミスレ剥げ、4葉耳小口イタミ、2葉少切れ(欠は無し)、角当り

を出品していました。古書転蓬のブログ「転蓬だより2014年8月20日付「消える女、心身修養法ほか」に登録したことが見えていますが、書影は示されていませんが『消える女』です*1
 この『消ゆる女』か『消える女』か、については9月27日付「山本禾太郎『抱茗荷の説』(2)」にて言及した、ミステリー情報のサイト「小林文庫」の掲示「小林文庫の新ゲストブック/過去ログ 2000年01月01日〜2000年06月30日」でも既に話題になっていました。、
 まず、桜の「No.442 (2000/05/20 11:21) title:散策」に、

ある目録で、「消ゆる女」昭和22年、神戸刊ではなくて、目録では「消える女」で、しかも昭和23年で、大阪刊の、山本さんの本、これは再刊なのでしょうか・・・

と言及され、これに対する須川毅の返信「No.465 (2000/05/24 18:37) title:「消える女」と「消ゆる女」」には、

某古書目録の山本禾太郎「消える女」は僕のところに来ちゃいました。
(長編と思ったのですが200枚程度しかないのですね。ま、この時代だから・・)

これについて以下お教え頂ければ嬉しいです。
(1)大阪刊と書いてあったので、これは同じ紙型を使った異本だと思ったのです
 が、実は同じ梅田出版社(昭和23年12月1日刊)でした。大阪のほうで出版され
 たっていう意味だったのですね。
(2)従って再版だと思うのですが、タイトルも本文も新仮名遣いです。想像です
 が昭和20年末に新仮名遣いが告示されていますから、これは「現代仮名遣い版」
 とでも称すべきものでは? こういう例は多いのでしょうかねえ。
(3)「消える女」と「消ゆる女」の違いが気になります。桜さんが「消ゆる女」を
 お持ちなら教えて頂きたいのですが、本文も旧仮名遣いですか? 表紙のイラ
 ストは? ちなみに「消える女」は「窓」「消える女」「後書」の構成です。

と落札者が実見しての書込みがなされました。これに対して石井春生が「横レスで失礼します。」として「No.466 (2000/05/24 23:28) title:RE:「消える女」と「消ゆる女」」を書込んでいます。「ある方から聞いて以来、大変気になっていましたので」とのことで、

ところで、「消える女」と「消ゆる女」ですが、九鬼紫郎「探偵小説百科」に/書影が載っていました。でも、本文では「消ゆる女」となっています。/どうしてこうなっているんでしょうね。不思議です。今までは全く疑問に/思わなかったことでしたが、須川さんのご指摘で今回初めて気が付きました。

それにしても、この表紙はすごいですね。もし、どこかで見かけてもまず/ミステリだとは思わないかも。

と述べています。九鬼紫郎『探偵小説百科』では、『消える女』となっている書影を示しながら、本文では「消ゆる女」として紹介しているようです*2須川氏に対する桜の返信「No.468 (2000/05/25 06:42) title:構想」は、感想の域を出ませんので、引用はしないで置きます。
 さらに落札者の須川毅の「No.472 (2000/05/25 18:24) title:「消える女」」の書込み、

僕の主専攻とははずれているのですが、
(1)山本禾太郎の長編なんて今後まずは復刻されまい、これを逃すと読めない?
(2)KTSCの流れの作家に関心が・・・
という理由でつい手を出してまいました。/(会報見せてくださいね>オーナーさま)

「探偵小説の饗宴」(山下武)でも一応誉められているんですが、本当に推理小説/なんでしょうねえ? まだ読んでませんが、単に浪花節の話だったらどうしよう?


 これに対して、石井春生「No.473 (2000/05/25 22:14) title:RE:「消ゆる女」」は、

「消ゆる女」……九鬼紫郎「探偵小説百科」でも、しっかりミステリとして紹介/されていますから、大丈夫ですよ。ちなみに、この本でも誉められていました。/私もこれのおかげで一度読んでみたいと思ったほど。ぜひ、感想を聞かせて/下さいませ。


 そして桜の書込み「No.474 (2000/05/26 06:00) title:吹雪」に、須川氏の書込み「No.472」の(1)への返信として、

 どうやら、昨日のことで、ある人よりの情報、「消ゆる女」と「消える女」の2冊があるということ。いずれも、昭和22年、梅田出版社刊です。つまり、須川さんのが、異装版です、これはなかなか手にいれられないようです。**、000円は安いですね、希少のようです。うーん、うらやましい。


 そして、「No.472」の(2)に対する返信として、

 神港新聞連載「消ゆる女」製本版を入手した人がいましたが、どのあたりが削除、訂正されたのか、内容がことなるようですね・・・、これもおもしろいです。
 山本さんには、戦後、2冊しか刊行*3されていないのですから、これはx風ならぬ、桜吹雪です。

とあり、そして桜の「No.475 (2000/05/26 06:33) title:時期」という書込みに「「日本ミステリー事典」にはこの「消ゆる女」の記載がないような・・・、と思う。」とあるのを最後にこの話題は途切れています。
 もしこれらの情報が全て正しいとすると、①昭和22年「神港夕刊」連載版、②昭和22年刊『消ゆる女』梅田出版社、③昭和22年刊『消える女』梅田出版社、④昭和23年12月1日刊『消える女』梅田出版社、⑤昭和25年「妖奇」連載「心の狐」の5種類の版があることになります。①④⑤の存在は確実として、③は伝聞でしかないので不安があります。そして、果たして山下氏の挙げた②は実在するのでしょうか。単行本②③④3種のうち、横井氏、それから古書店に2度出たものがいづれも④なので、どうも不安にさせられるのです。(以下続稿)

*1:この記事を9月末に準備していたときにはまだ売れていなかったのですが、先刻「日本の古本屋」を確認したところ「この商品は既にご注文を承っております」となっていました。

*2:9月下旬に準備した段階では未見でした。

*3:原文は「観光」と誤変換されているが訂正した。