瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

七人坊主(53)

松谷みよ子現代民話考|Ⅴ| あの夜へ世へ行った話・死の話・生まれかわり』1986年2月15日第1刷発行・定価1800円・立風書房・451頁)
 157〜422頁「第二章 死の話」の、293頁11行め〜296頁1行め「五、うらみ」の1項め、293頁12行め「本妻の思い」に載る3話は文庫版でもそのままである*1が、2項め、295頁8行め「のろって死ぬ」を見るに、

のろって死ぬ*2
 上広瀬のある家で、村一番の財産家から金を借りた。期限に返したが、又請求された。\結局裁判|になったが、証拠が無く敗訴した。それで又金を払った。そのおやじが死ぬ前\にその(■■)財産|家の方へ骨の頭の方を向け鍋をかぶせて埋めてくれ、といって死ん\だ。遺族がそうしたら、さすが|の金持ちだったが、忽ち潰れた(倒産した)
                                岐阜県・菅田一衛/文――
 
 分布
 ○岐阜県吉城郡国府町。本文。*3
   回答者・菅田一衛岐阜県在住)

と、これで全てである。つまり七人坊主と、もう1話(339頁17行め〜340頁11行め)は文庫版での追加なのである。
 なお、引用に際して伏字にしたのは、括弧に「財産家」の苗字が入っているからである。――郷土史家である回答者の菅田氏には苗字を示す意図は恐らくなく「財産家」と伏せているのだが、実話であることを示すために、念のため括弧付きで、こっそり教えるような按配で苗字を示したのであろう。すなわち『現代民話考』編集に際して削除すべきであったのが、うっかりそのまま載せてしまったものと思われるのである。没落して土地に残っていないのなら支障はないのかも知れないが、以上のような見当からここでは伏せて置くことにした。
 文庫版『現代民話考』での増補分が、どうもきちんと分類されていないような気がすることは、2012年4月21日付「終電車の幽霊(2)」に指摘したことがあるが、この七人坊主の話も、坊主たちの執拗な祟り方からして「のろって死」んだのだろうけれども、そこは飽くまでも“伝説”と云うべきであって、事実あったことだとしても“現代民話”ではあるまい。ここはむしろ大昔の原因で整理するのではなく“現代”の現象である昭和27年(1952)の事故に合わせて、祟りがあるとされている場所で禁忌を破ったために命を落とすことになった、と云う型に含めて整理するべきではないか。
 その傳で行くと文庫版に増補されている「のろって死ぬ」のもう1話も、単行本の、まさに「のろって死」んだ話とは違う、恨みを含んで死んだ人物が幽霊になって出たと云うだけの話で、やはりこれも誤分類と云うべきである。

*神奈川県横須賀市。稲荷谷戸にとても変な家があったのです、一見あたり前の家な【339】 のですが、その家には表との境の戸、玄関、勝手口、窓などはあっても、中はふす/ ま一枚、障子一枚ないという家なのでした。押入れも丸見え、しきりのない家に幾/ ばくかの所帯道具が並び、そこに若夫婦と赤ん坊が住んでいるのでした。大人たち/ の噂によれば、その若夫婦はいわくのある夫婦で、御主人が許嫁を捨ててその奥さ/ んと一緒になったそうで、捨てられた女の人は恨み自殺をしたということ、それ以/ 来、夫婦の寝室には戸を立てられなくなったということなのです。ふすまにしろ、/ 障子にしろ立てて寝ていると、必ず戸をばっさりと倒し、その上から恐ろしげな女/ が、じいっと覆い被さるというのです。どこに引っ越しても同じことで、その夫婦/ は寒中でも戸を立てられない、ということなのでした。もう、六十年にもなるむか/ しの話です。
  回答者・内池和子福島県在住)


 小説にでも仕立てたいような話である。稲荷谷戸横須賀市汐入町5丁目。この「六十年にもなるむかし」も、本書を見る限りでは昭和61年(1986)の単行本刊行から平成15年(2003)の文庫版刊行までのいつなのか、起点が分らないので戦前と云う見当が付けられるばかりである。この点につき回答者の内池氏について検索して見るに、シルバーマン恵子と藤田絵美ブログ「ハワイ島でヒーリング!」の2012-11-26「福島は今〜詩人☆内池和子さんの朗読&語り合い」に引用される「内池和子さん略歴」に「1931年生まれ。福島県伊達郡国見町在住。神奈川県横須賀市で育ち、15歳で福島に移住。‥‥」とあって、昭和21年(1946)まで横須賀市に住んでいたとして、やはり文庫版刊行に近い時期の報告であったことが察せられる。それはともかく、幽霊となった女性は死に際し特に呪法を試みたと云う話が伝わっている訳ではないのだから、例話の飛騨の話と一緒にするべきではなく、結婚はしていないけれどもむしろ「本妻の思い」に含めた方が良さそうだ。しかし、この「本妻の思い」と云う分類も、どうかと思う。――捨てられたことを恨みに思って死んだ女性の幽霊と云う分類で良さそうに思うのだけれども。(以下続稿)

*1:3話めの回答者の改姓・転居があるのみ。

*2:文庫版338頁3行めは1字下げ。以下、単行本の改行箇所を「|」で、文庫版の改行箇所を「\」で示した。

*3:ルビ「よしき」。文庫版は「○」ではなく「*」で、この前に新たに2話挿入されている。