瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

朝日新聞名古屋本社社会部『映画風土記』(4)

 昨日の続き。
 9月11日付(2)に引いた、文庫版「あとがき」211頁4〜13行めが、上製本の当該箇所・4頁1〜3行めに比して具体的になっていると述べたが、これは上製本4頁3〜4行めに「連載中、二カ月ごとに一回、取材の裏話を記者座談会のスタイルで紙面にのせました」とある【記者座談会】の内容を反映させている。「記者座談会」は前回見たように文庫版では「割愛」され、個々の映画に関する「取材メモ」が「コラム形式で」各項に「挿入」されているのだが、そこから漏れた内容を、掬い取っているのである。
 38〜41頁・1回めの「記者座談会」――と云っても、実際に座談会をやったのではなく、座談会のスタイルでまとめたもののようだが――の冒頭を抜いて見よう。38頁上段2行め〜下段3行め、

 中部地方を舞台にした映画をどのようにリスト/アップしたの?
  映画会社の宣伝部、ナゴヤシネアストなど/の映画通、各地の役場の観光課に聞いて回った。/実際にロケした作品、ほかで撮影したが主な舞台/になっているものも合わせ、六十本余りががリス/トに上っていた。もっと、もっと、あるはずだ/が……
  読者からも情報がきているね。金田行雄さ/んから『遠い雲』(高山)、井上啓子さんと大久保/純子さんから『青い山脈』(恵那峡)、秦真左子さ/んからは『姿三四郎』(半田)、そして岡田哲さん/から『明日なき男』(岐阜公園)、佐藤恒子さんか【上】ら『動乱』(浜松・中田島砂丘)。加藤鉄夫さんは/『青銅の基督』(瀬戸)のロケ風景の写真も送って/いただいた。このほかにもたくさん来ている。


 インターネットのない時代、会社や映画通、役場の観光課、そして読者からの投書など、知っている人に教えてもらうしかなかった訳だ。上製本・文庫版とも43本収録しているから「六十本余り」はこれを上回ることになる。実は、ここに挙がっている読者から情報提供のあった映画6本のうち、半分の『姿三四郎』と『明日なき男』と『動乱』は取り上げられていない。記事にする程の情報がなかったのか、それとも記者が魅力を感じずに取り上げなかったのか、こういった記事にしなかったものも含め地図に示したら良かったのではないか。上製本・文庫版ともに地図は一切ない。それはともかく、文庫版にはこういったリストアップについての記述がなくなっている。
 文庫版211頁11行めの「資料の散逸」については、74〜77頁・2回めの「記者座談会」に、74頁上段2〜10行め、

 ――シナリオやスチールを集めるのに苦労した/ようだが。
  古い映画になると、ほとんど見る機会がな/くて困る。東京のフィルムセンターや自主上映に/かかるのを探して出かけたり。シナリオも倉庫に/眠っているのが多く、「キネマ旬報」のバックナ/ンバーをひっくり返したりする。スチールの保存/も一部の会社を除いては、相当ずさんだ。日本映/画が衰退したのもうなずけるような気がする。

とある。しかし官庁でも、つい最近の議事録が完全に残っていなかったり、すぐに廃棄されていたりするのだから、それを以て衰退の根拠と云う訳は行かないと思うのだが、それとも、見せかけだけ景気回復して、実は――すっかり衰退していると云うことなのか。
 それはともかく、3回め(110〜113頁)4回め(146〜149頁)5回め(174〜177頁)の「記者座談会」は、このような導入なしに取り上げた映画についての「取材メモ」にいきなり入っている。6回め、202〜204頁の「記者座談会」は、最後だけあって作品以外の総括的内容も含まれる。すなわち、202頁上段2行め〜下段2行め、

 五十五年から五十六年春まで一年間にわたって/連載した「映画風土記」も今回で終わり。四十九/回でした。最後の座談会では、映画関係者や読者/の声も集めました。
 ――監督や俳優はスケジュールが忙しくて、会/うのに苦労したようだね。
  古い映画を見るため、東京の国立近代美術/館フィルムセンターや一宮市の中部日本教映会社/に出かけたりした。映画関係者とのインタビュー/やロケ地を訪ねたりで、手間のかかる取材だった/なあ。
  社会部記者はいつも、ばたばたしがちだ。/が、この連載では、じっくりと腰を落として焦点【上】深度の深い読みものにしようと努力した。記者へ/の発注は二カ月以上前にした。


 取り上げた映画は43本だが「記者座談会」が6回あるから合計して49回である。
 最後に、204頁下段8〜13行め、

 ――読者の反響も大きかったね。
  取り上げてほしい作品名をあげた手紙だけ/でも三十通余りになる。『姿三四郎』『どたん/ば』『朝焼けの詩』など記事にできなかったもの/も多い。ご愛読を感謝するとともに、機会があれ/ば、再開したいね。

とあるのだが、再開されなかったようだ。何か別の記事や企画に活用されたかも知れないが。(以下続稿)