瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

水島新司『ドカベン』(17)

鈴木則文監督『ドカベン』(15)
 原作と映画での影丸・賀間との関わり方の違いは、映画を再見する機会を得てから改めて詳述するつもりだけれども、1点だけ触れて置きたい。
 9月27日付(15)に触れたように、車に轢かれそうになったサチ子を助けるのが、原作の影丸から映画では賀間に変更されているのだが、その後、山田兄妹*1が賀間が土方をして働いているところを目にする。原作の賀間は私立中学の夜間部の生徒で、昼間は働いているのだが、勤め先は「江夏商店」と云う酒屋(文庫版④62頁)で、土木作業ではない。この土木作業の場面は、福島県代表いわき東高校のエース・緒方勉の設定を借りたのであろう。「出かせぎのおとうが倒れたでリリーフに来たべや」と云う次第で県大会終了後に横浜の飯場に入るのだが、山田兄妹に道を尋ねて案内してもらっている(文庫版⑧203〜205頁)。山田兄妹はその後、彼がすごいコントロールのフォークを投げるところ(文庫版⑧218〜220頁)や、土木作業に従事するところ(文庫版⑧221〜222頁)を目撃している。――この場面に拘ったのは、9月22日付(11)の末尾に「映画の内容は⑦までで、‥‥」と述べたのだが、賀間の土木作業シーンがここに由来するならば、「映画の内容は⑧までで、‥‥」と訂正する必要が生じるからである。
 それはともかく、原作にて鷹丘中柔道部が*2影丸の花園学院柔道部、そして決勝で賀間の武蔵中(夜間部)柔道部と団体戦で対戦し、山田と賀間の大将戦で決着がつかず、再試合で山田が賀間に敗れて準優勝に終わるのだが、左手を負傷した賀間に合わせて右手を使わずに戦って敗れたこと(文庫版②221〜241頁)が生徒会を始め学校中で「八百長」として問題になり、山田は柔道部を退部することになる(文庫版②251〜274頁)。以後の流れを辿って見るに、映画はかなりの部分を省略していることが分かる。
 山田が柔道部からいなくなったまさにそのとき「中学柔道荒らし」が「出現」する(文庫版②280頁〜文庫版③84頁)。講道館の伊賀谷師範代の仲裁により、岩鬼・賀間・影丸・木下・山田の日本中学選抜(!)と、何故か「日本中学柔道の絶滅」を目指してこっそり(?)来日していたアメリカ柔道のスペンサー・トレイユ、スミス、ジョー、不明、シナトラ(キャプテン)と正式に試合をすることになる(文庫版③85〜189頁)。そこに柔道を敵視するアルコール中毒の空手の達人・幽鬼鉄山とその弟子の少年・牙が絡んでくる(文庫版③109頁〜文庫版④86頁)。映画にはこの辺りの人物を登場させていない。さらに賀間と山田が講道館に段位認定試合(二段位)を受験しに行き、そこに岩鬼と、岩鬼が小学4年生から3年間の番長(20代目)をはっていた青田小学校で、小学3年生から番長(24代目)をはろうと云う野望(?)を持った井之頭軍司が絡んで来る(文庫版④89〜297頁)。青田小学校にはサチ子が入学したところで、山田兄妹もこの騒動に巻き込まれてしまうのだが、どうも当初、サチ子と軍司をくっつけるような構想であったらしく(文庫版④138頁)思われるのだが、結局発展せずに終わった(ようだ)。井の頭軍司は映画にも、番長などではなく、ただの野球好きの少年として登場している。
 そう云えば、映画のヒロインの生徒会副会長の朝日奈も、同じく途中で作者に忘れられたらしい。この長身の美少女は出番は少ないながら、山田の「八百長」が問題になったときも独り、厳しく山田を指弾する大河内生徒会長に対し山田を擁護していた(文庫版②279〜280頁)し、アメリカ柔道のキャプテンのシナトラを除く4人が鷹丘中に道場破りに現れたときにも、岩鬼に勝って「柔道部」の看板を彼等が持ち帰ろうとしたとき「待ちなさいよ」と声を掛けて、山田を倒さなければその看板には価値がない、と挑発している(文庫版③30〜31頁)。その結果、山田は彼等と対戦して仲間たちとともに日本中学柔道の名誉を守り、目出度く柔道部に復帰するのである。
 すなわち、かなり重要な役割を果たしていたのであるが、これを最後にいなくなって(?)しまうのである。(以下続稿)

*1:11月13日追記10月22日付(31)の【10月31日追記】にこの場面に触れたが、サチ子は同行していないので「兄妹」を削除した。

*2:11月15日追記】ここともう1箇所、「鷹岡」を「鷹丘」に訂正した。