瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(39)

・朝里樹『日本現代怪異事典』(2)
 8月18日付(35)の続き。
 78頁中段21行め〜下段8行め、

 また殺した人間を背中に背負っているこ/とに子どもが気付く怪談には他に、温泉宿【中段】などに現れた客をその宿の主人の子があま/りに怖がるので、宿から出ていってもらう/ように頼み、後で子どもに訳を聞くとその/客の背に髪を振り乱した血塗れの女がいた*1/という。そして後日、若い女を殺した犯人/が捕まったという報せを聞いて犯人を確か*2/めると、あの日宿に泊まろうとしていた客/だったことがわかる、というものがある。


 8月15日付(34)に触れた、灰月弥彦の2018年1月23日23:41のtweet及び2018年1月24日21:19のtweetにて、灰月氏が「蓮華温泉の怪話」系統の話について「おんぶ幽霊」を連呼していることに、何だか引っ掛かるものを感じていました。8月12日付(31)に見たように「蓮華温泉の怪話」も犯人が座っているときは「おんぶ」でしたが、歩いているときには「フワフワ後から歩いて」付いて行っているのですから。――父親に拠る母親殺し以来ずっと、殺人の事実を知らない子供に、父親が母親をおんぶしていると見えていた、と云う話を「おんぶ幽霊」と命名するのは、悪くはないでしょう。そしてこれは、例えば2011年1月2日付(02)に引いた蜂巣敦『実話 怪奇譚』その他、大勢に指摘されているように、確かに「木曾の旅人」や「蓮華温泉の怪話」と同類の話ではあるのです。そして朝里氏も『ピアスの白い糸』の大島氏と同様に、飽くまでも先行する話型として言及しているのです*3が、項目名が「おんぶ幽霊」ですから灰月氏は差当り「おんぶ幽霊」を連呼せざるを得なかった訳なのです。
 しかし、これは分けるべきではないでしょうか。同類ですが、同じ話ではありません。『日本現代怪異事典』は、例えば名称のヴァリエイションがやたらと多い「カシマさん」系統の話を、個々の名称によってやたらと細かく立項しているのですが、「おんぶ幽霊」のような例では実にざっくりしています。これは不統一の謗りを免れないと思うのです*4。いえ、「カシマさん」のように名前に意味のある怪異は名前で分けても良いでしょうが、この話群の場合、「おんぶ幽霊」のような妖怪じみた名前にするのではなく、やはり現象で分類するべきだと思うのです。この、名称に拠る分類と現象に拠る分類と、出現場所に拠る分類の悩ましさは2014年1月11日付「赤いマント(81)」に触れたことがあります*5。しかし「カシマさん」系統の話が、1例だけでも1項目になっているのに対し、2016年10月1日付「閉じ込められた女子学生(1)」等に取り上げた話群は、235頁下段〜236頁中段4行め「地下体育館の幽霊」で一括されているのです。暗室が舞台になった話もあることには触れていますが、2016年9月27日付「「ヒカルさん」の絵(06)」及び2016年9月30日付「関西テレビ『学校の怪談』(1)」に取り上げた図書室を指摘していないことが気になっています。もちろん朝里氏は、306頁下段10行め〜307頁上段7行め「ヒカルさん」を、近藤雅樹『霊感少女論』に依拠して立項しているので知っていたはずなのですが「ヒカルさん」の項目自体も随分あっさりしています。どうも、妙に力の入った項目とそうでない項目、それから細かく名称で分けた項目と大雑把に纏めた項目とのバランスの悪さが目立つのです。
 しかしながら、私にも妙案はありません。名称による分類が適当な例、現象(内容)による分類が適当な例、場所による分類が適当な例、この3者は複雑に入り組んで『現代民話考』でも妙な按配になっていました。朝里氏もそれに気付いているので444〜449頁「類似怪異索引」や450〜465頁「出没場所索引」466〜478頁「使用凶器索引」を付けているのでしょう。――私は、項目は現象による分類で立てて、名称や場所は別に検索出来るようにするべきだと(それはそれで不便も生じるでしょうが)考えています*6
 その伝で行くと、現象を上手く説明したとは言い難い「おんぶ幽霊」と云う名称を与えた処理法には、私はあまり賛成出来ないのです。(以下続稿)
【附記】文体が敬体になっているのは、過去の記事を読み直しているうちにそういう気分になっただけで、深い意味はありません。

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *

 録画して置いたテレビ朝日金曜ナイトドラマ「dele」第4話(8月17日放映)を見たが、――子供が林間学校で外泊しているとき、ここぞとばかり不満を訴えて来た妻を死なせてしまった*7父親(矢島健一)が、死体を山中に埋める。子供が、失踪したことになっている妻の捜索を、超能力少年のTV番組に依頼する。10歳の女子にはもう見えない(!)のであるが、少年には見えていて……と云うことで、見えているのが自分の子供でないところが異なるが、何となく似ていると云うか、先が読めてしまったのであった。

*1:ルビ「ちまみ」。

*2:ルビ「しら」。

*3:今回引用した箇所の冒頭に「また‥‥他に」としているように。

*4:もうだ氏の2018年6月21日23:22のtwitter【#都市伝説狂歌 197 おんぶ幽霊】は、残念ながら「おんぶ幽霊」でない方の、「蓮華温泉の怪話」系統の話を使って「おんぶ幽霊」の題詠をしている。このような混乱を避けるためにも、異なる話は別に項目を設けるべきである。

*5:本当はもっと大々的に『現代民話考』全体について検討するつもりだったのだが果たせていない。

*6:7月28日付「小松和彦監修『日本怪異妖怪大事典』(4)」に見たように、『日本怪異妖怪大事典』は「データベースから抽出した呼称から項目名‥‥を選定」しており、名称の異なるものや似たような現象は「別称・類似現象」として項目名に添えている(前付(23)頁「凡例/2 各項目の構成」の2項め)。すなわち名称よりも現象に重きを置いている。『日本現代怪異事典』は名称に重きを置いているが、名称を当てにくい怪異の扱いが微妙になっているように思うのである。

*7:所謂「はぐれ死」。