瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(40)

・朝里樹『日本現代怪異事典』(3)
 昨日*1引いた粗筋に対する朝里氏のコメントを見て置こう。78頁下段9行め〜79頁上段3行め、

 これは妻を殺した夫の話よりさらに古/くから語られているようで、小松和彦監/修『日本怪異妖怪大事典』によれば、山/村民俗の会編『あしなか』二二四号にて、/一八九二、三年頃の話としてすでに、宿を/訪れた紳士を息子があまりに怖がるので引/き取ってもらった際、理由を尋ねたところ/息子の背後に血みどろで髪が乱れた女の姿/が見えたと答え、後日その紳士が若い女を/殺して逃げいている最中だったことがわ/かったという話が記録されているという。/またこれに類似した話が一九五三年の「毎/日新聞」において、一八九七年頃の話とし/て記録されているようだ。さらにこれとほ【78頁】ぼ同様の内容の話が白馬岳の旅館を舞台に*2/して松谷みよ子著『現代民話考5』でも記/録されている。


 14行めから字数が増えているのは、この辺り、校正段階で推敲したのだろうと思っていたのですが、18行め「逃げいている」で確信に変わりました。79頁の上段は3行めまでで(「おんぶ幽霊」が【あ】の最後なので)以下余白なのですから(79頁中段〜下段はコラム)79頁に送れば良さそうなものなのに78頁を詰めているのは、余程ギリギリの調整らしく思われたのです。ついでに「同様の内容の」も「同様の」だけで良いでしょう*3
 さて、8月15日付(34)に引いた、灰月弥彦の2018年1月24日21:19のtweetに「『日本現代怪異事典』で1892,3年頃の話として記録があるとのこと」とあったので、どこにそんな「記録がある」のか、と吃驚したのですが、――記録(record)と云うと、会議の記録係や、国内最高記録など、信用するに足るものと云うイメージがあります。古記録とか記録映画とか。伝聞を書いたもの及びその内容を「記録」とは、まづ云いません。
 ここも「あしなか」や「毎日新聞」や『現代民話考』など(時間差及び書物の性格からして)直接取材して書いた訳でもないものを「記録されている」とするのは、用語として問題があると思うのです。

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 とにかく『日本現代怪異事典』の「おんぶ幽霊」項を参照することで、「1892,3年頃の話」の由来が『日本怪異妖怪大事典』であることが分かりました。次にはこれを確認して見ましょう。
 なお「毎日新聞」は、8月18日付(35)に見たように朝里氏が言及している『ピアスの白い糸』に、8月18日付(37)に抜いたように引用されています。ここに蓮華温泉の地名があるのです*4が、朝里氏は採録していません。従って、479〜490頁「都道府県別索引」の「新潟県」にも(「長野県」にも)この話は出ていません。類話の探索は「蓮華温泉の怪話」(及び「木曾の旅人」)に及んでいないようで、当ブログも参照されておりません。――しかしながら、書名に「現代」を謳っている通り、余り古い例のことは書き加えない方が良いのではないか、と思っています。
 『現代民話考』の話は、当ブログでは既に2011年1月23日付(08)に、初出誌まで遡って確認済です。(以下続稿)

*1:【9月10日追記】この記事が2018年9月9日22:31の廣田龍平のTweetに言及されたことで、冒頭、この位置にあった「の」が衍字であることに気付かされました。これは直ちに削除しました。

*2:ルビ「しろうまだけ」。

*3:9月23日追記】初版第3刷でも修正されていない。なお78頁下段16行め「/息子の背後に‥‥」は「息子は紳士の背後に」とあるべきである。

*4:「れんげ温泉」と表記しているのは「蓮」は当用漢字表に(その後身である常用漢字表にも)含まれていないので、漢字制限に従順であった新聞は使用を避けていたからである。