瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(50)

・末広昌雄「山の伝説」(4)
 昨日の続きで、8月12日付(31)に引いた白銀冴太郎「深夜の客」のうち、【J】巡査による男の捕縛と説明とした箇所に対応する、「山の宿の怪異」15頁下段21行め〜16頁上段7行めを抜いて置きましょう。要領は前回に同じで、書き換え・書き足しと判断される箇所を太字にして示しました。

‥‥。、向こうからさっきの紳士を縛りあげ/た巡査が山を下って来る姿た。
 「旦那、その男は、何か悪いことでもしたのですか」と尋ねると、巡査は、こいつあ、人殺/しなんだ。越中で、若い女を殺して逃げて来/た悪い奴なんだ。あちらの警察からの手配で/ここに逃げこんだことがわかって追跡して来/たんだ」と、答えた。【15頁下段】
 「人殺しですかと、主人はぞっと身震いし/た。犯人であるかの紳士深くうなだれて/顔もあげなかった。そして巡査に護送されて夜も深まる雪の山道を下って行った。月は、彼/らにも照り冴えわたっていた。ランプのあかりが人魂のように、雪の中を遠ざかって行/く。


 「深夜の客」では、2人の会話は一九六頁5〜6行め「旦那、つかまりましたか。」/「有難う、わけもなく捕えることが出来た。おかげで大手柄だ。」と云うやり取りから始まっていたのですが「山の宿の怪異」にはこれがありません。この処置に連動してか、続く会話は間に地の文を挟んでいて、テンポ良く運んでいないのです。
 この他に気になる異同としては「雪」が積もっていることが繰り返し強調されていることと、「巡査の提灯」であったのが「ランプのあかり」と、妙に近代的になっていることです。(以下続稿)

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 なお、8月8日付(27)に言及した2017年11月14日9:47の東雅夫のtweetでは、杉村顕道の次女からの電話で「サンデー毎日」のことを聞かされて、杉村顕道=白銀冴太郎説の可能性の高まりを覚えるのですが、――杉村氏が「サンデー毎日」に作品を発表していることは、『杉村顕道怪談全集 彩雨亭鬼談』457〜464頁、紀田順一郎「杉村顕道の《発見》」に、立風書房版『現代怪奇小説集』編集に当たって、紀田氏が東京神田小川町の古書会館での即売展で入手した杉村氏の『彩雨亭鬼談 箱根から来た男』の1篇「ウールの単衣を着た男」を、全く無名の作者の作品ながら収録することになり、463頁13〜16行め、

 作者がどのような人か、興味が湧いてきたのは当然だが、編集部に届いた略歴書には教育界の人で/あること、「サンデー毎日」に作品を発表したことがあることのほか、「昭和十九年、時世に感ずると/ころあって教鞭をなげうち、現在は財団法人宮城県精神障害者救護会の常任理事を勤めている」など/ということがわかった。‥‥

と云う次第で、既に紀田氏によって言及されていました。
 東雅夫 編『山怪実話大全』の第三刷(二〇一八年 一 月二八日初版第三刷発行)の「解説」には、2018年1月24日22:58の東雅夫のtweetによれば、白銀冴太郎=杉村顕道説が加筆されているようですが、未見なので紀田氏の記述に触れているか確認しておりません。そこで一応、ここにメモして置くことにしました。