瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

校舎屋上の焼身自殺(24)

・新聞報道(5)夕刊①身元判明
 それでは、11月17日付(21)に見出しを挙げた各紙から、昭和61年(1986)1月27日付夕刊の記事を見て行きましょう。
・「朝日新聞

 二十六日深夜、東京都杉並区/の女子美術大学焼身自殺した/女性は杉並消防署などの調べで/■■市■■■、同大四年■■■【7段め】子さん(二一)とわかった。


 年齢の漢数字は半角で2桁めはやや右寄り、1桁めはやや左寄り。
・「毎日新聞*1

 東京杉並区和田の私立女子/美術大(松島道也学長、学生/数約千二百人)二号館(鉄筋/四階建て)屋上で二十六日深/夜、焼身自殺した女性の身/元は、杉並署の調べで二十七/日、埼玉県在住の同大四年、/A子さん(二一)とわかった。 


 自殺者名を匿名にしています。年齢の漢数字は半角で2桁めは右寄り、1桁めは左寄り。
・「読売新聞」

 二十六日夜、東京都杉並区/和田一の女子美術大学二号棟【7段め】屋上で灯油をかぶって焼身自/殺した女性は、杉並署の調べ/で、そばに置いてあった油絵/のネームなどから埼玉県■■/市■■■、同大四年■■■子/さん(二一)とわかった。


 年齢の漢数字は半角で2桁めは右寄り、1桁めは左寄り。
 「読売新聞」だけが、傍にあった油絵のネームから身元が判明したとしています。このネームは11月7日付(15)に引いた「週刊新潮」2月6日号の記事によれば、カンバスの裏に貼り付けてあった札でした。しかしながら、カンバスに描かれていた油絵に直前に書き込まれたらしい「遺書」に当たるものには、触れていません。
 その文言については11月7日付(15)に、ネット上に見えているものを幾つか取り上げましたが、うっかりしていてこの事件について調べ始める切っ掛けとなった、川奈まり子実話怪談 出没地帯』にもこれに言及してあったことに触れるのを忘れていました。
 初出のニュースサイト「しらべぇ」連載の2015/02/18「【川奈まり子の実話系怪談コラム】母校の怪談【第九夜】」から見て置きましょう。太字は原文のまま。

それにまた、焼身自殺した生徒が屋上に残した絵の――タイトルなのだろうか?――裏だか隅だかに書かれていたという言葉が、また恐ろしかった。
「そして扉は開かれた」
まるで、死の国への扉が開かれてしまったようではないか。
もちろん「スランプから脱け出したい一心の祈りの言葉である」と解釈した方が、故人に敬意を払うという意味で礼儀にかない、理屈も合っているのだけれど。
――吹きさらしの屋上で、灰色のコンクリートに残る人の焼けた跡を見たときには、全身が焼かれる苦痛に満ちた幻を体感すると同時に、目には見えない通路がそこに穿たれているような、そして女生徒の肉体を贄にして召喚された何かが迫ってくるような恐怖を感じたものである。


 これが単行本28頁16行め〜29頁5行めでは、

 さらにまた、自殺した生徒が屋上に残した油彩画の裏だか隅だかに書かれていた言/葉が思わせぶりだった。【28】
《そして扉は開かれた》
 絵の題名だろうか。自らの肉体を生贄に捧げて黄泉の扉を開けたかのような不可思/議な言葉で、私はそれを頭に置いて焼身自殺の跡を見たため、よけいに怖ろしく感じ/たのかもしれない。黒い人型の上に目には見えない通路が穿たれていて、あの世から/召喚された何かがそこから這い出してきそうで。*2
 

と改められています。10月18日付「閉じ込められた女子学生(15)」に指摘したように、川奈氏は執筆に当って[mixi]のコミュニティ「女子美(4年制)」のトピック「6号棟に出るって話し」を参照しているはずなのですが、その[17]番に自殺者の友人が「ついに世界は開かれた」と、「週刊新潮」2月6日号と一致する形で引いていたにもかかわらず、これを採用していません。
 川奈氏の《そして扉は開かれた》がどこから出て来たのか、単行本では自殺現場を見に行ったときにこれを「頭に置いて」いたと述べていまから、早い時期から川奈氏はこのように記憶していたことになります。川奈氏の周辺、女子美術大学付属高等学校3年生そして女子美術短期大学生の一部には、この文言で広まっていたのでしょうか。学校側は10月20日付(01)に引いた[18]番の書き込みにあるように、学生・生徒に詳細を説明したりはしないでしょうから、正確な形で伝わっていなくともおかしくない訳で、記憶の通りならばこれはこれとして尊重すべきだと考えます*3。しかしながら、やはり実際に絵に書かれていた文言が判明した以上は、これが実際とは異なることにも触れて置くべきだったと思うのです。(以下続稿)

*1:11月23日追記】当初「東京都」としていたのを修正した。

*2:ルビ「いけにえ・よ み//うが/」。

*3:「扉」と云う語の印象が川奈氏の想像力を強く刺激した(ことになっている)訳ですし。