・末広昌雄「雪の夜の伝説」(10)
「あしなか」第弐百弐拾四輯掲載「山の伝説」所収「山の神の伝説」は、実は「山と高原」第二三三号掲載「雪の夜の伝説」所収「狩山の鼠」の書き直しでした。
そして平成4年(1992)の「あしなか」では、9月14日付(55)に見たように、末広氏は「昭和三十年代に残雪の東北の山々を歩いた時に、珍しい山の神の伝説を聞いた」と主張していました。昭和31年(1956)の「山と高原」二月号に既に書いているのですから、末広氏が「残雪の東北の山々」を訪れた「昭和三十年代」とは、昭和30年(1955)春と云うことになりそうです。まぁそこまで厳密に考える必要はないかも知れませんが、一応そう云うことになります。
9月14日付(55)で確認したように、国鉄阿仁合線の荒瀬駅は昭和38年(1963)10月の開業ですが、北に2.4kmの阿仁合駅までは昭和11年(1936)9月に開業しているので、昭和30年に神奈川県藤沢市の人がこの辺りまで旅行することは、時間は掛かりますが困難と云うほどではありません。
しかしながら、一昨日まで検討した白銀冴太郎「深夜の客」の剽窃を見ても、末広氏は信用のならない書き手と云うべきです。そしてこの「狩山の鼠」=「山の神の伝説」でも、9月14日付(55)及び昨日も注意したように「北秋田郡荒瀬村」と云う戦前の行政区画名を持ち出しているところに綻びが窺われるように思われるのです。いえ、この疑念は「山の神の伝説」に御丁寧にも、現地を「歩いた時に、‥‥聞いた」と書き加えたことでいよいよ深まったと云うべきで、そう考えてみると関東の若者が昭和30年(1955)に、現地の人と話が通じたのだろうか、と云う疑問も浮かんで来ました。現地に親戚でもいて、或いは親がこの辺りの出身で、現地の言葉に通じていれば纏まった内容の話を聞き出すことも可能でしょうが、さもなければ相当困難だったことでしょう。しかしながら、末広氏の他の著述を眺めても、秋田県の辺りに特に縁があったようには思われないのです。
すなわち、末広氏は「山の宿の怪異」を昭和3年(1928)の「サンデー毎日」から剽窃したのと同様に、これと抱き合わせた「狩山の鼠」=「山の神の伝説」も昭和12年(1937)以前「北秋田郡荒瀬村」時代の文献をそれと断らずに使っているのではないか、と思われて仕方がなかったのです。
そこで「山の宿の怪異」の検討記事を上げるのと並行して、武藤鉄城(1896.4.20〜1956.8.30)の次の本を借りて眺めたりしました。
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