瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤いマント(204)

 一昨日まで最初の『恐怖対談』と最後の『特別恐怖対談』の2点だけだけれども、吉行淳之介「恐怖対談シリーズ」について一応の確認をした。そして昨日、手始めに「エレベーターの墜落」にまつわる怪談を取り上げたのだけれども、本題はむしろこちらの方である。
吉行淳之介『特別恐怖対談』(1)
 7篇め「和田誠――初体験大会篇」単行本129~149頁・文庫版145~240頁、1頁め(頁付なし)は扉で横組みで大きく上部に単行本は中央、文庫版は左寄せで題、単行本はその下にゲスト名、文庫版は右寄せである。下半分は吉行氏と遠藤氏のイラスト。2頁め(頁付なし)は白紙。本文は以下の7つの節に分かれている。節の題はゴシック体2行取り下寄せ(下に単行本は1字分、文庫版は2字分空白)で入っている。3頁め冒頭はさらに3行分空白。
似顔のほうでも食える監督」単行本131頁1行め・文庫版147頁1行め・文芸文庫39頁1行め
二重の恐怖」単行本134頁3行め・文庫版150頁9行め・文芸文庫42頁13行め
まぼろしの初体験」単行本136頁6行め・文庫版152頁17行め・文芸文庫45頁7行め
淫靡な気配の記憶」単行本138頁9行め・文庫版155頁7行め*1・文芸文庫48頁3行め
初めて観た映画」単行本140頁17行め・文庫版158頁5行め・文芸文庫51頁6行め
小鳥クリーニングと赤マント」単行本143頁1行め・文庫版160頁15行め・文芸文庫54頁2行め
 単行本145頁上・文庫版163頁上 頭から全身を覆う布を被った人物が右から左へ走る。顔と片手、両方の足が出ている。右下にこの人物を見上げ、口元と上半身が震えている吉行少年と和田少年(丸坊主)。
驚くほどうまかったもの」単行本145頁9行め・文庫版163頁7行め・文芸文庫57頁1行め
 末尾(単行本149頁6行め・文庫版167頁13行め)に下寄せで小さく「(昭和五十九年八月三十一日・銀座〈梅もと〉で)」とある*2
 最後に添えた「文芸文庫」と云うのは講談社文芸文庫丸谷才一編『やわらかい話 吉行淳之介対談集である。

・二〇〇一年七月一〇日第一刷発行・定価1400円・358頁
・二〇〇二年二月七日第五刷発行・定価1400円*3
『やわらかい話2 吉行淳之介対談集
・二〇〇八年三月一〇日第一刷発行・定価1400円・350頁
 『2』もついでに示して置く。12篇(『2』は16篇)の対談が収録されているが、「恐怖対談シリーズ」からの再録は2篇めにこの和田氏との対談、37~61頁「初体験大会篇」と、3篇め、63~92頁に淀川長治との対談「こわいでしたねサヨナラ篇」の2つだけである。淀川氏との対談については、詳細は別に記事にすることとしよう。
 37頁(頁付なし)は扉で右上に明朝体縦組みでやや大きく題、右下にゴシック体で「吉行淳之介和田誠  」とあり、その左に和田氏の正面から描いた胸像の似顔絵(自画像)がある。『恐怖対談』のイラストは再録していない。38頁(頁付なし)は下部中央に縦組みで小さく、

■わだ・まこと
イラストレーター。一九三/六年、大阪生まれ。著書に/『お楽しみはこれからだ』/『倫敦巴里』など。

とある。節の題は3行取り5字下げでやや大きい明朝体で、39頁冒頭は2行分空白。末尾(61頁8行め)に下寄せでやや小さく「(「小説新潮」一九八四年一二月号)」とある。
 赤マントが話題に上っているのはもちろん6節め「小鳥クリーニングと赤マント」である。まづ前半、吉行氏語る小鳥クリーニングの件を見て置こう。
 単行本143頁2行め~145頁8行め・文庫版160頁16行め~163頁6行め・文芸文庫54頁3行め~55頁7行め。改行位置はそれぞれ「/」「|」「\」で示した。

和田 子供のころの話というと、人さらいというのがしよっちゅう出没して。
吉行 あの怖さは、一種の谷内六郎的世界でもあるね。【文庫160】
和田 あれは結局、言うことをきかない子供に大人が言った言葉が、子供の中で勝手にふ\く|らん/じゃう。
吉行 そうなんだ。たとえばあのころ、自転車の後ろに籠*4をのっけたクリーニング屋のお\に|いさ/んが物珍しくて、子供がまつわりつく。籠の外側に「小島クリーニング」と書いて\ある|ので、/「おにいさんのところは小島というんだね」なんて聞くと、「小鳥クリーニング\だよ」|なんて言/う。小鳥と子取りとかけてある。夕暮れでね、そうすると、物凄く怖くな\ってくる。
和田 曲馬団に売られる、というのも怖かった。
吉行 酢を飲まされて、グニャグニャにされて。
和田 上海*5に売られる。
吉行 ソビエトの体操の女子選手が、ひところみんな箱に入れられて育てられたように小【文芸54】さ|かっ/たでしょう。ムヒナという十六くらいの選手は、育ちそこなったみたいに鼻の下に\タテ|に皺*6が入/っていた。優勝したりするんだけれど、そのうちパッと消えてね。そしたら\このあ|いだ新聞に、/ソビエトの過去のオリンピック選手がどんどん死んでいるという記事\が出てい|て、変にイメージ/がつながってしまった。しかし、酢を飲むと体が柔らかくなる\というのは、|何なんだろうね、も/ちろん嘘*7なんだろうね。
和田 あるいは、或る程度は根拠があるのか。【単143】
同席の男性 いま、酢は健康食品ですけれど……(笑)


 夕暮れ時に自転車に乗る男性の「子取り」のイメージは、7月13日付(201)に見た、大阪の黒田清『そやけど大阪』にも述べてあった。そしてサーカスに売られるというのも大正から戦前生まれに共通の知識であったらしい。埼玉県北部の農村地帯で育った私の父(1938.2.24生)も、夕方以降に泣き止まずにいると「泣く子はもらう~」と言う人さらいに連れて行かれると脅されて、それが本当に怖かった、と語っていた。
 エレナ・ムヒナ(1960.6.1~2006.12.22)について、ルーマニアの白い妖精ナディア・コマネチ(1961.11.12生)と同時期に活躍した体操選手だが、コマネチも全く覚えていない(だからビートたけしのギャグは全く面白くなかった)私は今回初めて知った。昭和51年(1976)モントリオールオリンピックを制したのがコマネチで、昭和53年(1978)の世界選手権を制したのがムヒナだった。昭和55年(1980)モスクワオリンピック直前、練習中に脊髄損傷の大怪我を負って20歳で選手生命を絶たれている。
 ムヒナ現役時代のソビエトの体操女子選手の体格や、昭和59年(1984)にソビエトのオリンピック選手が次々死亡したという新聞記事が出たことまで確認する余裕がなかった。ただ、そういうことがありそうなイメージはあって、まさかそんなことは、とは思えないのである。(以下続稿)

*1:ルビ「いんび」。

*2:単行本は前に1行分、下に1字分空白。文庫版は下に2字分空白。

*3:8月24日追加。

*4:文庫版ルビ「かご」。

*5:単行本・文庫版ルビ「シヤンハイ」。

*6:単行本・文庫版ルビ「しわ」。

*7:文庫版ルビ「うそ」。