瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(114)

・北原尚彦所蔵の『信州百物語』初版(3)*1
 一昨日からの続き。
 ここまで、なかなか北原氏の初版に話が及ばなかったが、実は北原氏は初出「SF奇書天外REACT」の初稿段階では、初版を持っていなかったのである。
 すなわち、単行本『SF奇書コレクション』15頁18行め~16頁9行め、

 更にはごく最近、『信州百物語』の初版を入手した(所持本は重|版だったのです)。初版はタイトルが微妙に異なり『怪奇傳説 信州【15】百物語』であった。再版の際に改題したらしい。しかも序文が全く|異なり、こちらでは『信州の口碑と伝説』出版後に執筆依頼を受け|たものの、長野から樺太へ移り住んだために完成が遅れたことなど|が書かれていて、文末には「顕しるす」とある。やっぱり、杉村顕|道の作で間違いなかったんだ!
 これを手に入れたのは、実は今回の原稿を編集氏に渡してしまった直後のこと。神田古本まつり中の古書即売会で見つけ、びっくり仰天。すずらん通りへ移動したら神保町ブックフェスティバル東京創元社ブースに編集氏が丁度いたので、「情報追加するからちょっと待って!」とお願いした――というドラマがあったのです。


 【初版】の「はしがき」は9月8日付(111)に、国立国会図書館蔵書により引用した。――【初版】は9月3日付(108)に列挙したように、地元長野県内の図書館には少なからず所蔵されているのだが、適当な位置付けがなされず、参照されることもなければ死蔵である。この北原氏の紹介によって初めて、標題が従来知られていた『信州百物語 信濃怪奇伝説集』とは違っていたことや、「はしがき」が違うこと――【初版】には杉村「顕」の名が入っており、成立事情が説明されていたことが、明らかになったのである*2
 前回同様、初出にない箇所を仮に灰色太字にして示した。なお、15頁の字数が少ないのは前回述べた通り、16頁の7行めまでの字数が少ないのは『信州百物語』初版の書影を掲出しているからである。これも初出にはカラー写真が掲出されている。――初出は(2009年11月5日)付だけれども、2009年10月29日朝にアップされている。神保町応援雑誌「おさんぽ神保町」WEBの、2009年9月29日「第50回東京名物神田古本まつり 10月27日(火)~ 11月3日(火・祝)」にある通り、この年の神田古本まつりは10月27日(火)に始まっているから、27日か28日(水)に入手し、差当り標題と「はしがき」について確認して、直ちに加筆したことになる訳である。(以下続稿)

*1:9月12日追記】投稿当初「・『信州百物語』の成立(6)北原尚彦所蔵の初版③」と題していたが「成立」解明に大きな意義を持った発見だけれども内容は「成立」事情に絡まないので、見出しを改めた。

*2:私は研究者として、これまで学界にその真価を見逃され、死蔵(お蔵入り)されていた図書館蔵書の価値を査定し(逆に過大評価されてきた資料を適正に査定し直し)、そして発表当時注目されずに埋もれてしまった先行研究を活用して新たな地平を開くこと、正当に評価されていない資料・研究の位置付けを考え直すところ――すなわち、全く新たな発見を求めるのではなく、分かっているはずの(しかし理解されていなかった)ものをきちんと読み直すところに力を注いで来た。私にはそちらの闇(?)の方が、古本市場の明るく果てしない時空よりも深く、かつ、喫緊の課題であると思える。まぁそんなに長く活躍しなかったので、研究者として為し得た仕事は本当に少数であったけれども。貧乏性の図書館派にも、それなりの矜持がある(?)のである。