瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(115)

・北原尚彦所蔵の『信州百物語』初版(4)
 そして2010年4月5日にアップされた(2010年4月5日付)北原尚彦「SF奇書天外REACT【第2回】科学教育者が戦後初期に書いた『二十一世紀の秘密 ニュートピアの巻』(1/2)[2010年4月]」は、本題に入る前に前回の続報から始まる。
 まづ「【読者プレゼント】北原尚彦先生の蔵書の中から、特選古書を1名様にプレゼント!」という企画への反響と、今後も継続して行くことについて述べてあるのだが、これはもちろん単行本では省略されている。そしてここまでの流れを承けて「 それから、第1回についての補足です。第1回分がアップされたすぐ翌日、‥‥」と話題転換と云った書き方で『信州百物語』に筆を及ぼすのだが、単行本18~27頁「第2回 科学教育者が戦後初期に書いた『二十一世紀の秘密 ニュートピアの巻』」では『信州百物語』の話題が書き出しに当たる。
 少し長くなるが、その後の展開についての記述を抜いて置こう。18頁2行め~19頁10行め、初出と対照して、表現を変えた箇所を灰色太字で、加筆箇所を太字で示し、異同について註にして添えた。

 まずは前回の補足から。第1回分がウェブマガジン《Web ミステリーズ!》で公開されたすぐ翌|日、『杉村顕道怪談全集 彩雨亭鬼談』を刊行準備中だった仙台の出版社・荒蝦夷さんからご連絡を頂|きました*1。わたし杉村顕道『怪談十五夜(友文堂書房/一九四六年)を紹介した部分で*2、収録作品|十三篇のタイトルまでずらずらと書いておいたのですが――杉村家に残されていたバージョンと収録|作品数が違う、というのです*3。先方のは初版、わたしのものは三版でした。
 初版では十五篇入っていたのだとのこと。だから「十五夜」だったのか! と、ナットク。情報を|付き合わせた結果、初版から三篇が削除され、かわりに一篇が追加されて、十三篇になったのだと判|明。
 ですから、荒蝦夷さんが把握していない追加作品がひとつあった|わけで、それも*4『杉村顕道怪談全集 彩雨亭鬼談』に収録したいと|のことで、現物をお貸ししました。そうすると、また意外な事実が|判明。わたしが所持していたものは文庫本と同じサイズの小型本だ|ったのですが、初版は単行本サイズだったのです!
 その他、先方では『怪奇傳説 信州百物語』(信濃郷土史刊行会/【18】一九三四年)の初版に顕道自身による序が掲げられている事実をご存じなかったとのことで、そちら|でもお役に立てました。
『杉村顕道怪談全集 彩雨亭鬼談』の準備中というタイミングでわたしが*5第1回を書いていなければ、|これらは収録されなかったわけで、なんとも運命めいたものを感じてしまいました。同書*6二〇一〇|年二月に刊行されましたので、興味をお持ちの方は是非お読み下さい。
「自分がテキストを提供したことにより、全集類に入る作品が増えた」という経験はこれが始めてだったので、本書の刊行はわたしとしても非常に嬉しかったです。しかも杉村顕道令嬢・杉村翆さんに*7よる巻末談話を読んだところ、わたしの協力を凄い功績のように持ち上げて下さり、もう嬉しいやら恥ずかしいやら。


 さらに19頁11~17行め、やはり初出にはない、杉村翆から「テキスト提供のお礼」として『杉村顕道怪談全集 彩雨亭鬼談【特装版】』が届いたことが続くのだが、本題から外れるので割愛する。19頁6行め以降、1行の字数が減っているのは、上部にこの「装丁の布」に「杉村顕道婦人の着物を使用」したという【特装版】の書影が掲載されているからである。なお、18頁9~15行めの字数が少ないのも、上部(頁の左上)に『杉村顕道怪談全集 彩雨亭鬼談』の書影が掲載されているからである。初出には【特装版】の書影はないが、通常版の書影はやはりカラーで掲出されている。
 18頁7~9行め『怪談十五夜』の話数のことは、初出の第1回では特に注意していなかったのが、単行本ではこの事実を踏まえて、9月9日付(112)12頁8行めに「ヘンですね」云々と追加した訳である。
 18頁15行め「信濃郷土史刊行会」は、第1回では正しく「信濃郷土誌刊行会」となっていた。
 19頁9行め「巻末談話」の当該箇所は9月8日付(111)に引用した『信州百物語』に関する箇所の他に、「父・顕道を語る」の最後、452頁下段3行め~455頁(上段)10節め「顕道怪談の背景」の、454頁下段3行め~455頁上段13行めに『怪談十五夜』に触れているが、その後半(454頁下段17行め~)に北原氏の『怪談十五夜』三版の話数と判型(初版・B6判→三版・文庫判)を、娘の「私たちも知らなかった新事実」として紹介している。
 これら『杉村顕道怪談全集 彩雨亭鬼談』への北原氏の貢献は、465~467頁(頁付なし)編集部「【解題】」15項中8~10項め、466頁21行め~467頁5行めに、

・また『怪談十五夜』の初版と第三版の収録作品に異同のあることが文芸評論家の北原尚彦氏のご協力により判明した。【466】 第三版は、初版から「雨夜の客」「空家の怪」「隻眼の狐」が割愛され、替わって「手相奇談」が収録されている。「雨/ 夜の客」「空家の怪」「隻眼の狐」は本書「怪談十五夜」に、「手相奇談」は本書「彩雨亭鬼談拾遺」に収録した。
・北原氏には『怪談十五夜』第三版のほか『怪奇伝説 信州百物語』初版もご提供いただき、収録内容および判型や装/ 丁の異同を確認することができた。
・右のご教示とご協力に関して、東雅夫、北原尚彦両氏に感謝申し上げる。

と特筆されていた。東氏については7項め、466頁18~20行め、

・本書収録『怪奇伝説 信州百物語』中「蓮華温泉の怪話」は、文芸評論家の東雅夫氏編による『岡本綺堂 妖術伝/ 奇集』(学研M文庫)に著者不明の作として掲載されている。岡本綺堂作「木曽の旅人」と「蓮華温泉の怪話」との/ 関連については同書を参照されたい。

とある。但し『岡本綺堂 妖術伝奇集』の段階では作者不明だった訳だし「参照」しても「関連について」2011年1月2日付(001)に引いた以上の記述はない。
 ちなみに「父・顕道を語る」の『怪談十五夜』に関する話の前半は、2019年9月7日付(110)に言及した東氏のブログ「東雅夫の幻妖ブックブログ」の2009年10月12日「『信州百物語』の著者は、杉村顕道だった!」の最後に見えている。2009年10月12日に語られたもので、原ブログには「kendoeini.jpg/▲「栄に与ふ 父  昭和二十一年八月 栄時に七歳」と記された『怪談十五夜』。」との写真が掲載されていたのだが、現在は表示されなくなっている。談話では454頁下段9~10行め「榮に與ふ 昭和二十一/年 榮時に七歳 父」と小異があるが、残念ながら写真がないのでどちらが正しいのか判断出来ない*8。(以下続稿)

*1:ルビ「けんどう・あらえ みし」。

*2:初出は「わたし‥‥際に」。

*3:初出「ということなのです」。

*4:初出はここに「近刊の」とあり、書名はここで初めて持ち出す。

*5:初出は「わたしがあのタイミングで」。

*6:初出はここで段落を改めて「『杉村顕道怪談全集 彩雨亭鬼談』は」。

*7:ルビ「みどり」

*8:『怪談十五夜』の所蔵者は杉村榮・紀田順一郎東雅夫・北原尚彦。紀田氏と東氏の蔵書は初版のようだ。