瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

須川池(1)

 『怪奇傳説 信州百物語』改め『信州百物語 信濃怪奇傳説集』『山の傳説』の関係から、以前抱いていた伝説への関心が少々復活して来た。私は父が所謂転勤族で、高校までは長いところで4年半、短いと3年で転居を繰り返して来たから、根っからの(?)根無草で、だから伝統的なものに繋がれることが全くなく、ために伝説とか昔話とか云うのは私にとって憧れの存在であったのである。
 それで、いろいろと本も読んだのだが、何せ小学生だったので小難しい理論を十分咀嚼出来るはずもなく、その後も理屈が好きになれなかったので、30年以上前の、中途半端な知識で物を言っている。私の伝説観は今から25年前の大学3年の1月に授業の担当教員に提出した「塩嘗地蔵」のレポートで止まっている。当ブログでも2011年6月13日付「塩嘗地蔵(01)」に始めて、神奈川県の図書館に出掛けて資料漁りをしようと思ったところで滞っているが、――要するに、伝説は、特に名所旧跡(観光地)の場合、江戸時代以来、先行する書物を引き写すことで伝えられ、そこに賢しらで勝手な解釈を加える人が書き足し・書き替えを行うことで変化していく、と云う結論なのである。
 さて、10月5日付「田中貢太郎『新怪談集(実話篇)』(04)」にて、替え乾しされたことで上田城の濠を脱した、濠の主らしき赤い牛が須川池(須川湖)に移った、と云う話を取り上げて、常識的に(?)考えれば須川池の主になったのだろう、との見当を示したのだけれども、名前のあるほどの池なのだから当然須川池にも主はいたのだろうと思って、藤澤衞彦編著、日本傳説叢書『信濃の卷』を見るに、326頁10行め~327頁9行め「(一五二)須川の池(小縣郡城下村大字小牧)」として典拠を(口碑)として出ていた。城下村は大正10年(1921)9月10日に、大正8年(1919)5月に市制施行した上田市編入されている。上田市街の対岸、千曲川の左岸の中之条・御所・諏訪形・小牧が旧城下村である。
 それからちくま学芸文庫版の高木敏雄『日本伝説集』を、日本傳説叢書『信濃の卷』や『信州の口碑と傳説』と同じ話が出ていないかと借りて来ていたのだけれども、これにも「須川池」が出ていたのである。
 ネット上では差当り、Wikipedia「須川湖(長野県)」項を見るに、註[7]に「現地案内板および「上田市役所 - 須川公園」(2010年10月18日閲覧)より。」として、「須川湖の沈み鐘」と云う「伝承」を紹介してあった。

須川湖の底に信濃国分寺の鐘が沈んでいるという民話。国分寺にあった鐘の音色に魅せられた男がその鐘を盗み出したが、追っ手に気づくと鐘を須川湖に投げ捨てて逃げうせた。この鐘が元あった国分寺恋しさのあまり夜ごと鳴り出すという[7]。


 この現地案内板は「しあわせ信州」長野県魅力発信ブログ「じょうしょう気流」の2012.12.24「上田のロケ地を訪ねて~須川湖~」に、写真が掲載されている。それ以後の写真はなく、既にかなり劣化しているから現存していないであろう*1。――「須川湖」と題して3段落、1段め地理について6行、2段めは史跡について3行、そして伝説については3段めに7行、

 昔、国分寺のつり鐘をぬすみ/だした盗人がいた。この須川の/湖までくると後から追手がくる/ので鐘を湖に投げこんで逃げだ/した。鐘は湖底に今も沈んでい/て、夜中「国分寺恋しや」と鳴/りだすという。

とある。すなわち「鐘の音色に魅せられた男」などと云うことにはなっていない。それでは上田市役所の方はどうなっているのかと思ったら、リンク切れになっている。そこで改めて、現在の「上田市」HPを検索して、「須川公園」のページを見るに、

須川湖の沈み鐘>
遠い昔のことでした。信濃国分寺に大変音の良いつり鐘がありました。この鐘の音が大好きな男がいました。この男は自分の家にほど近い寺にこの鐘をおいて朝な夕なに鐘の音を聞きたいと思っていました。ある夜、ついに男はその鐘を盗んでしまいました。やっとの思いで湖の岸にたどりつきました。たどりついたときには、日がのぼりはじめていました。ちょうどそのとき追手がくるのに気がつきました。「せっかく・・・」と思い鐘を湖に投げ込むとドボーンと悲しい音を残して鐘は水底へ・・・。そして、それから人の寝しずまった真夜中に鐘は「国分寺恋しやボンボラボーン」と鳴り出すということです。

と云う、妙に盗人に感情移入したような(映画版『砂の器』みたいな按配の)話が、依拠資料を示さずに記されていた。いつからこんな展開になったのか知らぬが、これも例によって「塩嘗地蔵」に本当に塩を舐めさせてしまった《賢しら》の類いであろう。(以下続稿)

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 今日は一歩も家から出なかった。いや、朝、朝刊を取りに一足、昼に風に煽られた自転車のカバーを直しに一足、さっき夕刊を取りに一足出た。この記事は万一停電しても構わないように予約投稿にしている。風はそれほど強くないが家は少し揺れているようだ。いや、締め切ると蒸すので吹き込まないよう注意して少し窓を開けているので、風かも知れない。先刻、大した風でもないのに家が軋んで揺れたので、ついにこの家もガタが来たか、と観念したら、地震であった。

*1:現存しているとしても、殆どスクラップ状態ではないだろうか。