瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

ビートたけし『たけしくん、ハイ!』(10)

銀河テレビ小説たけしくんハイ!」シナリオとの異同(3)
 昨日の続き。
・第2回(2)古田①
 昭和29年(1954)の年末、竹次郎が不在の一家5人で穏やかに(?)過ごしているうち、つけてあったラジオから「尋ね人の時間」が流れてくる。
 ドラマでは、例の坦々とした調子で、

ラジオ:「昭和15年ごろ、江東区深川本所で漆職人をしていらっしゃった、西野竹次郎さんを、千葉市幕張町本町の古田寅之助さんが捜していらっしゃいます」

と読み上げるのを聞いて、真利子たちが騒然となり*1、英一郎はちょっと呆れ気味になるのだが、『シナリオ』ではこのラジオの文言などが違っている。ただTVドラマの方はNHKプラスの見逃し配信も終わってしまったので、上記のメモ以上の細部は今私には確認出来ない。
 31頁下段4~15行め、ちょっと長めに引用して置こう。

ラジオ「次、昭和十五年頃、江東区深川××町でう/ るし職人をしていらした西野竹次郎さんを――。」
  一同、ハッと顔を上げる。
英一郎「うちだ……
ラジオ「千葉県幕張市××町の古田浩二さんが捜し/ ていらっしゃいます。」
真利子「あら、あの古田さんだ。」
菊  「古田さんって?」
真利子「ほら、うちの人と同じうるし職人でさ、兵/ 隊に行った人いたでしょう。十六年の二月だったか/ な。家に、とうとう赤紙が来たよって、一升提げて/ 来てさ。」


 幾つか気になる点があるが、まづ名前が『シナリオ』では「古田寅之助」ではなく「古田浩二」となっている。それから「千葉県幕張市」とあるけれども、現在の千葉県千葉市花見川区幕張町とその周辺は、昭和29年(1954)7月に千葉市に併合されるまで千葉県千葉郡幕張町だった。もちろん「幕張市」にはなっていない。かといって、ラジオの方が正しているのかと云うとそうでもない。「幕張町」には「本町」はない。現在、宅地開発されて「幕張本郷」と称する地区があるけれども、当時の幕張本郷は田畑が広がるばかりだった。――「江東区深川本所」と云うのも、東京市深川区は戦後東京都江東区になったが、東京市本所区は東京都墨田区江東区ではない。それらしい地名をでっち上げただけなのであろう。
 古田は昭和16年(1941)2月に、当時のことだから支那事変に出征している。ここはなかなか重要である。
 しかし、帰宅早々真利子にそのことを伝えられた竹次郎は会いたくないと古田と連絡を取ることを峻拒する。真利子はペンキ屋に落ちぶれた姿を見せたくないんだと解釈してそれ以上会うよう慫慂しない。――この、竹次郎の戦前の漆職人仲間、古田寅之助(綾田俊樹)が登場するのは昭和30年(1955)年明けの第6回・第7回・第8回、そして後日談が第9回まで。第6回で何故竹次郎が古田を避けるのか、そして古田が何故竹次郎を捜していたのかが説明され、そして第9回で、非常に後味の悪い結末が着けられ、そのまま古田は登場しなくなる。「続たけしくんハイ!」には登場しないようだから、結局どうにもならなかったのである。
 それはともかく、このドラマには、このようにバランス良く脇筋、脇役が鏤められ、伏線(大した謎ではないが)やサプライズが配置されて、それが主要人物の人柄や経歴を浮かび上がらせるように出来上がっている。(以下続稿)

*1:ラジオに出たことを喜んでいる。私の子供の頃も、テレビに映るのを喜んだものだった。