瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

杉村恒『明治を伝えた手』(6)

 昨日の続きで、解説「職人の世界」3章め、181頁10行め~188頁2行め「技術は承けつがれる」の、グラビア頁の補足となる記述を見て置こう。5月16日付(2)に、仮に附した番号を添えて置くこととする。
 まづ、181頁11~14行め、

 取材した人達にはそれぞれ個性があった。どれ一つとってみてもエピソードになる話が出てくる。この道一筋にと/いったものを強く感じた。それは他に通用するものではないが、自分の仕事のことに関しては非常にくわしい知識を/持っていて、その仕事のために自分の人生を賭けているという態度に何度も接することが出来た。その一つ二つを挙/げさせていただこう。【181】

との前置きがあって、1行分空けて182頁1行め、2章め「伝統の復活と維持」と同じ要領で、1字下げで「刀剣研師   山田英氏(グラビア五〇ページ)」とあって、そのままやはり行空けなしで詰めて2行めから、183頁2行めまでが50頁(【25】)の補足となる山田氏の言と杉村氏の感想。183頁1行めが段落の頭なのに1字下げになっていない。これが1節め。
 2節め、183頁3行め~184頁15行め「金魚屋 片岡又三郎氏(グラビア一二〇ページ)」この節は全て片岡氏の談話。120頁(【60】)に一部活用されている。すなわち、120頁7~11行め、

‥‥。この渋い声/も最初は呼び売りの師匠に習いに行ったと/いう。つまり苗売り屋、孫太郎虫など、特/定の商売をする人に習いに行って発声練習/を終了すると免状をくれたものだという。

との記述は、183頁8~10行め、

 金魚は昔から呼び売りに決まっていました。だから呼び売りの声から習いやした。これも師匠がいましてね。苗売/屋、孫太郎虫など呼び売りの声だけを教えている方がいて、さあ、今でいう発声練習というんですかね。〝きんぎょ/ーえきんぎょー〟とこの尾を引く声、それがよく通るんでなくちゃいけない。それが終ると免状をくれましてね。‥/‥

を基にしているのであろうが、120頁では「呼び売り」専門「の師匠」に習ったのではなく「苗売り屋」や「孫太郎虫など」複数の「特定の商売をする人に習いに行っ」たようにも読める。続く183頁10~13行め、

‥‥。そ/れからかつぎを基礎から習ったんです。また自分でも工夫しましたが、水をゆさぶらずにかつぐのが金魚屋にはいち/ばん大事なことでしてね。腰で調子をとって歩く。一チ、二、と出ると一足さがって、三をふみ出す、でないと売る/場所へゆくまでに金魚が疲れてしまうんでさあ。‥‥

とあるのは、120頁12~22行め、

 天秤をかついで歩くにも基礎から練習し/たのだそうだ。腰で調子をとり、一チ二と出/ると一足下がって三をふみ出す、これが水/をこぼさないこつ*1で、「今時のようにリヤ/カーなんかに乗せてぼちゃぼちゃやってた/んじゃあ金魚が一ぺんに参ってしまいまさ/あ」という。なる程たらいに入れられた金/魚は水もはねないで全くたいらな処に入れ/られたようにすいすい泳いでいた。(歩き/―写真で見るように荷を平衡に保っため足/袋の足指がぴんと上に上がっている)

と、別の発言を引いて杉村氏の観察を加えたグラビア頁の方が、120頁上の盥の中の元気な金魚たちの写真と121頁の歩き姿の写真と併せて非常に分かりやすい。
 3節め、184頁16行め~186頁12行め「中島の留さん(グラビア一二四ページ)」(【62】)は羅宇屋を探して、人伝てに聞いて浅草寺に通い詰めて会ったものの別の人に話を聞くように言われ連絡を待ったものの電話はなく、185頁8行め「私の古い友人である藤間香寿さん」に教えてもらった住所を尋ねて図らずも再会、そこで取材が嫌いになった理由を聞かされる。それからは打ち解けて自由に写真を撮らせてもらえるようになったと云う経緯が説明されている。ここで注意して置きたいのは186頁4~5行め、

 九月に三越で街の文化財の催しを行なった時、この写真集にも出て来る飴細工の篠木さん、千社札の関岡さん、卵/芸術の松崎さんと、留さんが特別出演していた。‥‥

とあるのは、年が入っていないが本書刊行から最も近い9月である昭和43年(1968)であろう。篠木さん【6】、関岡さん【5】、松崎さん【23】。
 末尾、186頁12行め「‥‥留さんの煙管と煙草の研究も異色の本になるに違いない。」は解説だけを読んでいるとやや唐突だが、グラビア頁の紹介の末尾、124頁19~20行め「‥‥、/煙管とたばこの研究を書くのだと張切って/いる。」とあるのを承けている。この本はどのくらい執筆が進んでいたのか、結局刊行されなかったようだ。ただ、中島氏に関する文献は他にも幾つかあるようなので、今後も気を付けて見ようと思う。
 4節め、186頁13行め~188頁2行め「和竿*2」は、グラビア頁を指示していないところからも分かるように、グラビア頁の補足ではなく釣竿・和竿について、一般的なことが書いてある。(以下続稿)

*1:「こつ」に傍点「ヽ」を打つ。

*2:ルビ「わ  お」。