瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

白馬岳の雪女(29)

 昨日の続き。
・遠田勝『〈転生〉する物語』(09)「一」6節め
 30頁13行め~32頁10行め、6節め「バレット文庫の「雪女」草稿」の前半を抜いて置こう。30頁14行め~31頁8行め、

 白馬岳の「雪女」伝説が、ハーンの「雪女」に由来するもうひとつ有力な証拠をあげておこう。/それはバージニア大学のハーン・コレクション(バレット文庫)にある、ハーンの「雪女」の創作/【30】途上の、おそらくは中間段階と思われる原稿で、そこには「ミノキチ」「モサク」という名前が欠/けているのである。これについて中田賢次はこう述べている。

 (バレット文庫の)「雪女」七葉は、雪女出現のクライマックス場面の断片である。作品とし/ての輪郭はかなりととのってはいるが、少年に父母がいたり、雪女が背高のっぽの姿になって/消え去ったり、凍死した仲間が老人ではなさそうな点などを見ると、決定稿からほど遠い草稿/と言えよう。しかも、この断片から推すと、二人の樵には名前がまだ付けられていないようで/ある(13)

 バレット文庫の草稿を今ここに引くことはしないけれども、‥‥


 注(13)は240頁11行め「(13)中田賢次『小泉八雲論考――『怪談』を中心として』三六七頁。」とあるが、この本は前回述べたように閲覧が困難なので、出来れば初出と思われる「へるん」第36号(1999年・八雲会)掲載の中田賢次「『怪談』の「バレット文庫」草稿七種」も併記して欲しかった。
 この「へるん」も現状では中々閲覧に行くことが出来ないが、バレット文庫草稿の内容は、大澤隆幸「雪女はどこから来たか」(静岡県立大学「国際関係・比較文化研究」第4巻第1号(2005年9月16日発行・静岡県立大学国際関係学部・235頁)69~86頁)の69頁16行め~73頁8行め「1 草稿の検討」にて察することが出来る。
 それはともかくこの草稿を元に、遠田氏はこの節の後半に、元の話にはなかった登場人物の名前を、ハーンが命名した、とする推測を述べ、32頁5~7行め、

 この推定が正しいとすれば、「モサク」「ミノキチ」の名前がそのまま使われている日本の口碑伝/説は、直接的にせよ間接的にせよ、つまるところは、ハーンの「雪女」から派生した物語なのであ/る。

とする。「口碑伝説」かどうかはともかく、名前を踏襲しているものはハーン「雪女」から派生した、と云うのは全くその通りであろう*1。(以下続稿)

*1:しかしこの点は、前回見た、高濱長江訳『怪談』独自の人名表記「箕吉」の踏襲だけでも、十分なような気がするのだけれども。