・勁文社文庫21 Q-013『「超」怖い話』(3)
本書3~5頁「まえがき」を、ケイブンシャブックス版6~7頁「まえがき」と比較してみよう。
最初に3行取り1字下げで「まえがき」とある。本書は明朝体太字だがケイブンシャブックス版はやや大きいが太字ではない。
3頁2行めから見て行こう。砕けた表現を改まったものに書き換えた箇所は太字、新たに追加された箇所は赤字で示し、削除箇所には「*」を打って置いた。
▲は新たに段落分けした箇所、▼はケイブンシャブックス版の段落分けを止めて詰めたところ。
世の中には、酔っぱらうと怪談話をはじめるバカがいる。
それは私だ!
今までちょっとばかり怖い目にあってきたから、*どんどん偉そうに話すぞ。
私の話は、どれも実話の重みがあったから、昔はみ*なが感心して聞いてくれた。
▲ うむ、思えば、いい時代でした。
ところが、ここ数年異変が起こっている。▼私の身の回りで、神秘体験・霊体験を/したやつらが、めったやたらと増えてきているのである。
はっきりいって、昔はこんなにいなかった。
ここで、巷の霊能力者の人たちなら、いろいろとあの世とこの世の法則を述べて/くださるのだろうが、私にはそんなことはわからない。
ただ自分の身の回りの、ごく普通の人たちが、ある日突然、交通事故にでもあう/ごとく、不思議な体験をしていることが、何よりリアルで面白い。【3】
とにかく昔の怪談といえば、人づてに聞いた、どこか遠くの街*の話で、いかにも/作り話めいたものがほとんどだった*。
ところが最近の若いもんときた日には、しっかり自分で体験したオリジナルの怖/い話をビュンビュン繰り出してくるじゃありませんか。*
おかげで、こちらはすっかり聞き役にまわり、もう頭の中は、怖い話のストック/だらけで、ネトネトと糸を引き出す始末。
「あー、早くこいつらを世の中に送り出して、スッキリさせてしまわねば、頭の中/が沼袋になってしまう*」(筆者は西武新宿線在住です)
そんな悩みを抱えて*、日夜街をさ迷っていたところ、いるもんです、同じ悩みを/持った人たちが。
それが本書の共同執筆者、樋口明雄氏に加藤一氏、そして特別に二本寄稿してく/れた蜂巣敦氏(「月光文化」編集部)といった*面々だ。
「うむうむ、それでは、怖くて奇妙で面白くて、読んだだけで、*足元がぐらつき、/風景がいつもと*違ったものに見えてしまう、そんな本を一発つくりますか」
といった具合に簡単に相談はまとまり、あっという間に本書は一九九一年六月に/【4】誕生*。さらにはこうして文庫版として再び出版されるはこびとなったのです。
当然ながら、本書に収録された話は、すべて実話です。
執筆者が自分で体験した話と、体験者に直接会って聞いた話が*ほとんどで、中に/は若干、間にひとり中継者が入った話もあるけれど、それとてニュース・ソースの/あきらかなものばかり。
世の中世紀末。
▲ ここに収録されたのは、通常の人間の五感では、決して見ることのできない、*異/世界の不思議な風景画。
▲ どこかで聞いた*話は極力排除した。もちろん、不思議な出来事に対して、こと細/かに説明するなんて無粋なまねはいたしません。
▲ どう受け取るかは、すべてあなたしだい。
▲ さあ、本書を通じて、一緒にあちらの世界を覗きましょう。
最後に3行取り下寄せで「安藤君平 」とある。1頁15行なのでこれで丁度である。その余裕が出来た分、ケイブンシャブックス版の最後の段落を5段落に分けているのである。なおケイブンシャブックス版は「一九九一年四月十五日」付であったが本書には日付はない。そしてカバー裏表紙折返しにあったように「安藤 薫平 」の筆名が変わっているのである。この「げん直し」が安藤氏が続編執筆から下りたことに関係しているかどうか。(以下続稿)