瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

祖母の蔵書(122)童話

 いよいよ明後日、仲介業者に鍵を引き渡すことになっている。電気や水道の契約は明日までにしてあるから、明後日は朝のうち、入ることは出来るがもう作業は出来ない。明日の夕方、仲介業者が見に来ると云うので、今日の午前、家人が久し振りに祖母宅に出掛けた。そして、確認が済んだ本を持ち込んだ段ボールに順次詰めているのだが、それがまだ途中で若干散らかしたままになっているのを見て憤慨して、明日仲介業者に見てもらうのに全然片付いていない、何で段ボールに詰めているのか、今から私が本棚に戻すとか電話を掛けて来たので、明日の夕方には綺麗に整えて置くつもりだし、大して散らかってもいない。本はきちんと整理して段ボールに纏めている、部屋を買取った業者がどのように取り扱うつもりなのかは知らんが、捨てるにしても何処かに只同然で引き取らせるにしても一旦はあの部屋から運び出す訳だから、整理のために本棚から出して箱詰めしたことについては、感謝されこそすれ文句を言われる筋合いはない。と、思わず声を荒げてしまった。――家人は仲介業者から、遺品整理込みの部屋の買取と云うことになると、これに乗じて不用品を持ち込んで序でに片付けさせようとする不埒者が出て来る、そのようなことはしないように、と釘を刺されたので異様に現状維持にこだわっているのだが、若干ゴミが出たくらいで減らす一方なのである。どうして合理的に考えられないのだろうか。仲介業者には、明日私が応対して整理の必要上から本については本棚から出して段ボールに詰めて行ったことをきちんと説明するのだから、余計な心配はしなくて宜しい、だから本を本棚に詰め直す等と云う馬鹿なことをする必要は全くない旨、強く諫めていたら電話を切られてしまった。
 しかし、この期に及んで、色々と出て来る。今日は午後から出掛けて、冷房が効く寝間に籠もって作業をしていたのだが、ふと寝間の洋服箪笥と行李箪笥の隙間にある段ボールに気付いて、上に積んである毛布などを除けて見るとまず野村胡堂銭形平次捕物控』シリーズ等が13冊入った袋が載っていて、他にA4判の写真集が1冊、それから内縁関係だった人の家系図の複写が封筒に入っているのが見付かった。その上でいよいよ畳の上にある段ボールに行き着いて開けて見ると、山手樹一郎の文庫本が40冊くらい入っていたのである*1
 それから廊下の物入れにアルバムや家族の結婚写真などがあることも気になっていたのだが、夕方、もう帰ろうかと云う時間になってふと気になって、これまで改めて来なかった箱や雑器が仕舞ってある下の段に手を着けて、その一番下にある、何だか大きな紙箱を引き出してみたところ、その箱の蓋に次のようなことを印刷した紙が貼ってあったのである。
雑誌 童話 復刻版〈大正9年4月号~/大正15年7月号 〉全75冊(定価198,000円/分割払定価213,400円・岩崎書店

 貼付した書影は、私の見た函の中に入っている帙の写真である。私はこの帙までは見た。しかし、とてもでないが中身を改める暇がない。
 祖母が元気だった頃、馴染みの和食店で御相伴に与っている際に、子供の頃から本が好きだったことを回想して、その頃読んだ雑誌の復刻版が出たのを知って欲しくなって買ってしまった、と嬉しそうに話していたことがあった。しかし現物を見せてもらう機会はなく、今回祖母の蔵書の整理に着手してすぐに見付かった、仏間の硝子棚の脇に立ててあった次の本がそれだろうと思っていたのである。
・『大正・昭和のトップアーティスト100人が贈るワンダーランド! コドモノクニ名作選[上巻・下巻]2010年8月18日 初版発行・定価4,500円(分売不可)・アシェット婦人画報社・上巻256頁・下巻256頁・B5判並製本函入※ 函に帯あり、書影に同じ。表紙側最下部に「稀少特典大正12年1月号付録「お客様双六」の復刻版が付いています。」とある双六は、下巻に挟まっている。
 しかしこれは「名作選」とある通り、オールカラーで詩を中心とした作品の美しい挿画、そして思わず欲しくなりそうな装画を紹介した選集で、かつ、今発行日を見ると祖母から聞いたのより後の刊行である。――そうではなくて本当の、数年分の復刻版を買っていたのだ。しかし、仕舞い込まれていた場所からして、この部屋に移ってきてからは出して見ることもなかったのだろう。
 復刻版がある雑誌は国立国会図書館デジタルコレクションに入らないらしいので、その意味では貴重である。しかし、畳の幅くらいある。重さも10kgはあるだろう。しばらくゆっくり眺める余裕もない。すなわち持っていても仕方がない。今、検索したら出身大学の図書館に所蔵されている。見たければ出身大学に行けば良い。よって明日、祖母宅に行く途中、先日来てもらったベテランの方の古本屋に立ち寄って話をして、引き取ってもらうことにした。
 もっと早くに聞いておれば見せてもらったのに、全く中身は見ずに手放さざるを得ない。――全て明日まで(ぎりぎり明後日まで)なのだから。
 書籍を捜索する序でに微妙に古い食器や茶器や花瓶などを(家族はやはりこういうものにも無関心なのだが)色々掘り出して行くうち、これらのものももう少々、全くお任せすると云うのではなく、もっと主体的に判り易い形での処分が出来るのではないか、と次第に思うようになったのだが、本の整理の方を優先したので、漸く数日前に、2軒ほど古物買取業者にメールで問い合わせて見た。しかし返事がない。もっと早くに声を掛けて置けば良かった。元より私とて、これらのものを持ち帰る程の魅力なぞ感じてはいないのだけれども。(以下続稿)

*1:8月12日追記】紙袋に入っていた冊数を「12冊」と誤っていたが数え違いだったので訂正した。山手樹一郎の文庫本は8月2日には本のない寝間の本棚の可動棚に順番に並べただけで帰ったが、翌3日メモを取りながら勘定したところ丁度40冊だった。