瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

小堀杏奴 編『森鴎外 妻への手紙』(3)

 岩波新書版は本字・歴史的仮名遣い。ちくま文庫版はこれを新字・現代仮名遣いに直しているが、漢字を平仮名に開いたり、送り仮名や振り仮名を足したりはしていない。出征先からの書簡はもともと平仮名が多くくだけた口語文で漢字が少ない上に振り仮名も多く附してある。奈良からの書簡は片仮名文が多く、候文もあるが、それでも読みやすく書き換えることはしていない。
 ただ、「松島」が「松島」のままであるのはともかく、「廣嶋」は「広島」となっているのが気になる。いや、どこまでも原文での文字の使い分けを再現出来ない以上、この程度の区別がなくなるくらい、仕方がないことなのだが。
 さて、小堀杏奴「父の手紙」はまず、岩波新書版189〜196頁(ちくま文庫版191〜198頁)、鴎外の出征中に「明舟町にある、實家の持家」に母が茉莉と移り住んでいたことを説明し、実家の荒木家の人々について回想する。
 そして岩波新書版197頁の初めの段落(ちくま文庫版198頁12〜13行め)、

 その頃の母の實家の事に就いて少し書いてみたが、これから父の手紙を見ながら順序だ/つて説明を加へて行きたいと思ふ。

として、以下書簡番号を挙げながら解説している。ちくま文庫版ではこの次1行空けているが、岩波新書版では詰まっている。
 この他、違いを挙げると、岩波新書版は「 書簡() 父は……」となっているが、ちくま文庫版は「 書簡 父は……」と括弧を除いている。岩波新書版とちくま文庫版とでは書簡番号が前回指摘したところでずれているが、例の1年違いの書簡は取り上げていないので、ここでは問題は発生していない。また、発言を1段落に、岩波新書版では二重鍵括弧・1字下げで「 『やつぱり駄目ぢやないの。』」とするが、ちくま文庫版は「「やっぱり駄目じゃないの。」」と普通の鍵括弧で1字下げをせずに示している。
 ちくま文庫版で加えられた森まゆみの解説、235頁13行め「二十八年の夏、再び……」はもちろん「三十八年……」の誤りである。