瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

夏目漱石『硝子戸の中』の文庫本(06)

新潮文庫373(4)
 新潮文庫については、3月11日付(1)から3月14日付(3)までに、五十七刷・八十二刷・九十七刷改版等を比較して記述してみたのだが、カバーは八十四刷で改版になる少し前の八十二刷の時点で、現在の安野光雅の装画に変わっていると3月12日付(2)に書いた。
 ところがその後、安野氏の装画になる以前の「新潮文庫夏目漱石の作品」に共通だった「カバー 津田青楓装幀「色鳥」(夏目漱石著 大正四年 新潮社刊)より」のかかった八十二刷を見付けた。なんだか狐につままれたような気分だが、同様の例は既に知っているので、2011年2月18日付「田中英光『オリムポスの果實』(01)」及び2011年2月20日付「田中英光『オリムポスの果實』(02)」で注意した、新潮文庫239『オリンポスの果実』第五十一刷に2種類のカバーのあること、それから2011年5月26日付「柳田國男『妖怪談義』(2)」の、講談社学術文庫135『妖怪談義』で注意した、消費税導入前の増刷(昭和61年12月15日第12刷発行)に消費税導入後の増刷(1991年5月15日第17刷発行)と同じカバーがかかっていた例が、それである。
 さて、八十二刷の津田氏のカバーと安野氏のカバーを比較して見るに、背表紙、小豆色地に明朝体白抜きで上部に標題、中央やや下に著者名、下部に角切の短冊形に白く抜いてその中に[な 1 15]その下にゴシック体白抜きで「新潮文庫」とあるのは共通だが、安野氏の方が白抜きの文字が若干大きく、さらに一番下に黒地に白抜きで「\286」と定価が入っている。
 カバー表紙折返し、著者の紹介はほぼ同文で異同は「1905年」が「1905(明治38)年」となっているところのみ。
 カバー裏表紙折返し、津田氏のカバーの方には「続明暗」の下に小さいゴシック体で「*の巻には、『新潮カセットブック』/収録の作品が入っています。」とあって「硝子戸の中」と「文鳥夢十夜」の右下に小さく「*」が打たれている。安野氏の方にはカセットブック云々の記載はない。
 カバー裏表紙、レイアウトは一致、説明文の活字は組み直されて濃くなっているが、同文で字配りも同じである。
 この『硝子戸の中』のカバー掛替えの時期だが、これは新潮文庫漱石作品を安野氏の装幀に切り替える流れの一環として考えるべきで、消費税は八十二刷増刷時点で既に5%になっていたので、恐らくこの前に消費税3%時代の定価を表示したカバーがあるはずだが、それは見ていない*1。それはともかく、津田青楓の表紙で定価286円のカバーは、1年ほどの間の繋ぎで、珍しいものと言えるのかも知れない。

*1:【6月29日追記】七十八刷を見た。八十二刷の津田氏のカバーと同じところが多いが、異同を挙げるに、裏表紙の定価「定価280円(本体272円)」、背表紙の最下部は下線のある「280」、表紙折返しは新潮カセットブックの広告で『硝子戸の中』。