瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

夏目漱石『こゝろ』の文庫本(3)

・角川文庫(3)
 平成16年(2004)の改版前(角川文庫235 一八八版)と改版後(角川文庫13391 改版十八版)の、本体を比較してみる。
 1頁(頁付なし)扉は番号「235」から「13391」に変わっている。
 3頁「目次」、改版前は8.7×6.6cm、改版後は9.0×8.0cmにゆったり組まれている。違いは改版後に中村明「あらすじ」が追加されていることと、「作品解説」が吉田精一から中村氏に変わっていることである。
 改版前は5頁(頁付なし)に「初版本「こゝろ」の扉」の図版。改版後は4〜5頁(頁付なし)中村明「夏目漱石こゝろ』――あらすじ」で図版はなくなっている。
 7頁(頁付なし)中扉「こゝろ」。8頁から本文、改版前は1頁18行、1行42字。改版後は1頁17行、1行40字。
 改版前「 先生と私」8〜96頁、「 両親と私」97〜141頁、「 先生と遺書」142〜274頁。改版後は「上 先生と私」8〜105頁、「中 両親と私」106〜155頁、「下 先生と遺書」156〜301頁。章番号は半角ゴシック体で7字下げ、2行取り。
 「注釈」には担当者の名前がない。形式は同じで50項目。改版前は275〜278頁、1頁21行、1行49字。改版後は302〜306頁、1頁17行、1行48字。改版前は西暦を(1887)の如く算用数字で横転させて入れているが、改版後は漢数字で(一八八七)の如くにしている。それ以上の細かい比較はしていない。
 「解説」は改版前は279〜291頁、改版後は307〜323頁。前半の宮井一郎夏目漱石――人と作品」が改版前は287頁、改版後は316頁までで末尾に(一九六八・一一・二三)とある。本字歴史的仮名遣いから新字現代仮名遣いに改版するに際して用意されたものなのだろう。挿入写真3つは同じ。宮井一郎国会図書館OPACで検索すると明治28年(1895)生で、「都邑物語」という小説が『新進小説選集』昭和17年度後期版(昭和18年・赤塚書房)に肖像入りで掲載されているようだ。晩年は昭和37年(1962)6月に「群像」に「「明暗」の主題」を発表して以来、昭和59年(1984)5月の『漱石文学の全貌』上下2巻(国書刊行会)に至るまで漱石研究に専念していたようで、この『こゝろ』の解説は、前年に『漱石の世界』(講談社)を刊行したことによるものであろうか。この宮井氏については、玄柊のブログ「NORTHERN LIGHTS  詩の宇宙」の2012/3/25「東京探索行 2012 第3回 漱石を巡る話」に、宮井氏への献辞のある荒正人漱石研究年表』を紹介している。玄柊氏は15年ほど前に知人から譲渡されたとのことで、その知人も「海外で知り合った友人の父」が持っていたものだ、と言うのでそのさらに何年か前には宮井氏は逝去し、蔵書が周囲に流れたものと思われるのだが、ネットで検索した限りでは没年は不詳である。
 「解説」後半の「作品解説」は、改版前(288〜291頁)は吉田精一であったが、改版後(317〜323頁)は中村明(早稲田大学教授)のものになっている。大きな違いは、吉田氏は最初の頁(288頁)安倍能成岩波茂雄伝』と夏目伸六岩波茂雄さんと私」に拠り岩波書店から自費出版の形で出版することになった経緯を述べているが、中村氏はそういう説明をしていない。中村氏は319〜322頁にかけて、引用も交えつつ内容について述べているが、吉田氏はごく短く抽象的に済ましていて(14行・2段落、289〜290頁)、「明治の精神に殉死」云々が「最近の若い人々にはなっとくの行かないうらみがあるかも知れない」として、乃木大将の殉死とこれに対する当時の反応について具体的に説明して(19行・2段落、290〜291頁)締めくくっている。中村氏は最後の段落(10行)を「最後の「明治の精神に殉死する」ということばの心を真に理解することは、昭和に生ま/れてきた私たちには無理だろう。……」(322頁16〜17行め)と書き始めて、簡単に済ませている。ここのところ、私としては、平成も24年になって、「昭和に生まれてきた」をどうするのかが、非常に気になる。安易に「平成」には差し替えられない。そうなると「作品解説」自体を差し替えてしまうのか、それとも「昭和・平成」という書き足して誤魔化すのか。詰まらないことながら注意したい箇所である。
 最後に2段組の「年譜」、改版前(292〜300頁)は1段21行、見出しは2行取り、本文は見出しに対して1字下げで1行22字。改版後(324〜335頁)は1段16行になっている。改版前の「年譜」は角川文庫321『それから』改版五十七版・改版六十五版に一致している。
 改版後は最後の頁が奥付で角川源義「角川文庫発刊に際して」もないが、改版前は奥付の裏にあって、さらに最後に1頁7点の「角川文庫ベストセラー」が2頁ある。