瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤いマント(81)

松谷みよ子『現代民話考』の赤マント(3)
 一昨日からの続き。
 私は『現代民話考』の欠陥は、分類が怪異の内容と場所の二重基準になってしまっていることだと思っています。特に「[第二期]Ⅱ学校」はその欠点が遺憾なく発揮された巻となってしまったように思うのです。「赤マント」や「マント姿の幽霊」が「赤マント・青いドレスの女など」に分類されているかと思うと、便所に出没する赤マントは他の妖怪とともに単行本「第一章 怪談」77頁〜110頁13行め「六、便所にまつわる怪」=文庫版「第一章 笑いと怪談/怪談」93頁5行め〜131頁「六 便所にまつわる怪」に集められているのです。「学校」の場合、無理に分類するよりか、回答者の報告をそのまま学校別に並べれば良かったのだと私は思っていますが、そのことは改めて論ずることとします。
 「便所にまつわる怪」は「十三」項に分類されているのですが、そのうち単行本93頁10行め〜96頁13行め「五 赤いはんてん・マント・手袋」には6例が集められていました。文庫版112頁7行め〜116頁7行め「赤いはんてん・マント・手袋」では1話増補されて7例になっています。1例め(単行本93頁11行め〜94頁5行め・文庫版112頁8行め〜113頁3行め)は共立女子大学の「赤いはんてん」、2例め(単行本94頁6〜14行め・文庫版113頁4〜13行め)は「ある学校」の「赤いチャンチャンコ」、そして単行本6例め(95頁15行め〜96頁13行め)文庫版7例め(115頁7行め〜116頁7行め)の「ある中学校」の話も「赤いはんてん」で、これらは「着せましょか」と尋ねて来る、というもの*1。3例め(単行本94頁15行め〜95頁1行め・文庫版113頁14行め〜114頁2行め)は断片で「赤い手袋欲しいか」という声がするというのですが、答えたら殺される等の続きが脱落しています。4・5例め(単行本95頁3〜14行め・文庫版114頁3〜16行め)が「赤いマント」で、はんてんを「着せましょか」の話に挟まれているのですがマントの方は「着せましょか」ではなくて、単行本82頁6行め〜87頁13行め「二 赤い紙・青い紙」=文庫版99頁13行め〜105頁14行め「赤い紙・青い紙」(15話)や、単行本92頁15行め〜93頁9行め「四 赤い舌・青い舌」=文庫版111頁8行め〜112頁6行め「赤い舌・青い舌」(2話)のような、選択を求めるものになっています。文庫版で増補された文庫版の6例め(114頁17行め〜115頁6行め)は「赤いマント欲しいかー」と尋ねて来るという兵庫県宝塚市立小浜小学校の話です。ちなみに単行本87頁14行め〜92頁14行め「三 白い手・赤い手」=文庫版105頁15行め〜111頁7行め「白い手・赤い手」(19話)に載るのは、単に便器から手が出た、という話が殆どで、別に尋ねられたりすることもありません。

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 確認にて長くなってしまいましたが「六、便所にまつわる怪」に載る赤いマントの出る話を見て置きましょう。単行本に載る2話は終戦前の古い話です。文庫版で増補された1話については他の話との関連で述べる予定なので、今は保留にして置きます。
 では、本文を引用して見ます。単行本の改行箇所は「/」、文庫版は「|」、単行本冒頭「○」は文庫版では「*」となっており、次の行からは1字下げ。まず4例め(単行本単行本95頁3〜9行め・文庫版114頁3〜10行め)、

○長野県小諸*2市。昭和二十年、疎開先の長野県小諸の国民学校二年生の時。どこから|か転校して/きた男の子が、紀元節の式典の帰り道であったか、歩きながら「便所に|入ると、(便器の)中/から赤いマントと青いマントとどちらがいい? と聞かれ、|青い方が良いと答えた子が間もな/く死んでしまった」と私に語った。ところが、そ|れから間もなく、私にその話をした男の子が/急病で急死してしまった。私は、その|男の子も便所で青いマントが良いと答えたのではなかっ/たろうかと、子ども心に複|雑な気持をもったものである。
  回答者・平山和彦(福岡県在住)


 場所が「小諸市」となっていますが当時は長野縣北佐久郡小諸町です。それに「分布」には、話を聞いた場所ではなくて怪異が発生した場所を表示することになっているはずですから、この話は「場所不明」とするべきでしょう。それはともかく、昭和20年(1945)2月11日に国民学校2年生なのですから昭和18年(1943)4月入学、昭和11年度の生れです。だとすると『青年集団史研究序説』や『伝承と慣習の論理』の著者・平山和彦(1937生)で、『現代民話考』刊行当時は福岡教育大学教育学部教授でした。(以下続稿)

*1:これらは1月4日付(74)で注意した、稲川氏のラジオ放送に由来するのではないでしょうか。

*2:ルビ「こもろ」。