・一柳廣孝 監修『知っておきたい 世界の幽霊・妖怪・都市伝説』(6)
4月15日付(135)の続きで、4月14日付(134)の最後に挙げた疑問点について。
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さて、警察官が問題の便所で刺殺される、というオチですが、既に1月11日付(81)で見たように、『現代民話考』(単行本『現代民話考[第二期]Ⅱ学校』・文庫版『現代民話考[7]』)では、昭和60年(1985)に常光徹が生徒への調査で得た「赤いちゃんちゃんこ」1例、そしてそれよりは古いらしい「赤いはんてん」の2例が、挙がっていました。
これについて松谷氏は単行本15〜22頁・文庫版20〜28頁「笑いと怪談考」で次のように特筆しています。単行本16頁13行め〜17頁13行め、改行箇所を「/」で、文庫版22頁1行め〜23頁3行め、改行箇所を「|」で示した。
しかし何といっても他を圧して多いのは、学校という施設や備品にまつわる話で、殊|に少し前の/時代、学校が木造であり、便所が汲取り式であった頃は、まさに怪談は生ま|れるべくして生まれた/といっていい。‥‥|‥‥/‥‥(単行本2行・文庫版3行省略)‥‥/【単行本16頁】‥‥|‥‥。しかし子供達の空想は、現実のこの不気味な場所にも、あ/る童うたふうの色どり*1|を添える。赤い紙をやろか、青い紙をやろかという問いかけがそれである。/どっちを答|えても危難は降りかかるのだが、‥‥/|‥‥(1行省略)‥‥|‥‥/‥‥これは、|三番目の花子さん、/はーい、という掛合いのなかにも同様の発想があるし、これら童う|た的発想をまじえながら、一つ/の物語としての完成度を見せているのが、赤いはんてん|着せましょか、という話である。この話に/は赤い紙青い紙などより発展があり、学校側|は警察を呼ぶ。婦警が問題のトイレに入ると「赤いは/んてん着せましょか」と声がかか|る。「着せられるものなら着せてみなさい」とたんにナイフを持/った手が出て婦警の胸|を刺し、赤い斑点が婦警を彩るというのである。私はこの話を友人から聞い/たのだが、|【文庫版22頁】今回ほとんど同じ話が三つ集ったことに、ある感動を感じている。これは赤い紙青い紙、/|さらに三番目の花子さん、などのような童うたふうの発想が一つの話としてある完結を|見せた……/と思えるからである。さらに民話の成立には欠かせない連れ*2ができている。|‥‥
「連れ」というのは同類の話のことで「民話」として「成立」するためには、相互に直接の関連が認められないところから「連れ」が出現するのが、その目安と考えられていたようです。この「笑いと怪談考」の後半にも、単行本20頁6行め・文庫版26頁1〜2行め「皆が帰ったあとの体育館にボ|ールがひとりではねている」という話について、単行本20頁7〜9行め・文庫版26頁3〜4行め
‥‥。この話を娘の友達が話してくれたとき、/あ、これはきっと連れがあるな、と思|った。今回いくつかの話が出てきて、やっぱり、と思った。/小さい話なのに、こわい。
とあって、この話は単行本60頁12行め〜64頁1行め「四、体育館やプールの怪」60頁13行め〜62頁1行め「一 ボールがはねる」として4例、文庫版73〜78頁6行め「四 体育館やプールの怪」73頁2行め〜74頁(17行め)「ボールがはねる」として5例が紹介されています。
話を「赤いはんてん」に戻します。――松谷氏の「感動」に水を差すようで恐縮ですが、3つも連れが見つかった理由は、1月4日付(74)の後半にも少し触れたように、稲川氏の放送に由来する可能性が高いのではないでしょうか。もちろん稲川氏にこの話を報告した女性がいたので、稲川氏以前にもある程度、流布していたとも考えられましょう。ここが難しいところなのですけれども、中村氏が記録した「赤いはんてん」の流行時期から見てもラジオ放送由来の蓋然性は高いと思います。
ただ『現代民話考』の時点で、ラジオ起源ということに気付かずにいたとしても、それは責められないでしょう。けれども、稲川氏も自分の放送が流布のきっかけだということのアナウンスに努めていますので、今、この種の話について云々する場合、稲川氏の放送が起源だと認定しないまでも触れない訳には行かないのではないでしょうか。それを回避するために敢えて「はんてん」に触れなかったのではないか、そんな風に、何となく思えるのです。