瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

本多猪四郎監督「ガス人間第一号」(1)

 昭和35年(1960)12月11日公開。

ガス人間第1号 [DVD]

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  • 発売日: 2002/01/25
  • メディア: DVD
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  • 発売日: 2007/02/23
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ガス人間第1号  [東宝DVD名作セレクション]

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  • 発売日: 2015/07/15
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 警視庁捜査一課の岡本賢治警部補を演じた三橋達也(1923.11.2〜2004.5.15)主演と云うことになっているけれども、私は八千草薫(1931.1.6生)が主演だと思っている。ガス人間の土屋嘉男(1927.5.18生)ではなく、日本舞踊春日流家元春日藤千代が主役である。これについてはいろいろと述べたいこともあるのだけれども、今回は作中に出て来る印刷物を中心に、日付等を確認して置くこととしたい。
 00:08:10〜15に昭和35年7月7日(木曜日)付の新聞社会面が写される。紙名は下端が見えるのみだが、新人の佐多契子(1941.6.9生)演ずる岡本警部補の学生時代の下宿先の娘・甲野京子が社会部の婦人記者として勤める「東都新報」であろう。「出納課長を殺害逃走/吉祥寺 富田銀行にギャング」と云う記事で写真には「襲われた富田銀行吉祥寺支店」とのキャプションがある。記事本文は読みづらいが、

六日午後三時二十分ごろ、東京都/杉並区吉祥寺二ノ三富田銀行吉祥/寺支店で、‥‥

と読めそうだ。但し「三」としたところは特にはっきりしない。
 すなわち、冒頭に描写される事件は昭和35年(1960)7月6日(水曜日)の出来事と判明する。吉祥寺は杉並区ではなく武蔵野市。当時はまだ吉祥寺南町などに分割されていなかった。杉並区にしたのは勘違いか、わざと変えたのかは不明。
 00:12:40〜43に「夕刊東都新報」30065号の社会面が写る。しかし日付は写らず、記事「連続銀行ギャング」の本文はより読みづらくて日付は判読できなかった。
 00:19:23〜34に掛けて写る、乗用車1台が通れる幅のコンクリートの橋の、欄干の親柱(右側)に「おちあいはし」とあるのははっきり読める。親柱(左側)には「昭和‥‥」と年記が入っているがこちらはそれ以上判読出来なかった。さて、東京近郊で落合橋と云うと、現在の八王子市高尾町の案内川に掛かる国道20号線甲州街道)の橋であろうか。他にも東京の橋クラブのHP「東京の橋」にて検索するに、八王子戸吹町の谷地川(並行する滝山街道に落合橋バス停あり)、八王子市上恩方町の醍醐川、西多摩郡日の出町大久野の平井川、多摩市落合1丁目の乞田川に掛かる「落合橋」が候補に挙げられるが、橋の構造も道幅も近隣の民家も56年を経てすっかり変化して、ちょっと判別しかねる。但しあきる野市乙津の落合橋(都道201号線)は秋川の川幅からして除外されようか*1
 煉瓦積みの門柱に00:22:03〜06「〈私/立〉杜陵文庫圖書館」と云う青銅の銘板。角書きは左から右。オーディオコメンタリーの聞き手が、00;22:58〜23:02「たぶん上野の国会図書館の分室」と言っているが、今は国立国会図書館国際子ども図書館として現存している。
 00:23:34〜24:34、三橋達也が春日藤千代を見張るために書庫から出して閲覧室に持ち込んで読んだ振りをしている本は『中華料理独習書』と云う題である。国会図書館の蔵書はカバーを外すが、この本はカバーを掛けたまま分類票を貼付してある。
 00:30:14〜に「東都新報」の社会面、「連続銀行ギャング逮捕」の記事が写るが、日付が写っておらず本文も判読出来ない。
 00:31:37〜40に「東都新報(夕刊)」の昭和35年7月17日(日曜日)付の紙面が写され、「西山犯行を自供」と、偽犯人西山(山本廉)の逮捕を報ずる記事の脇に「学校づくりに新機軸/円型からアパート式も」と云う記事まで準備してある。他の日付の紙面も記事や写真・広告など藝が細かい。
 00:33:17〜20に「春日藤千代/新作舞踊發表會」のポスターが写る。藤色地で題は右側に毛筆。中央に紋を大きく白く抜き、上部やや左寄りに紫の長方形に白の毛筆で「情鬼」、下部左から「會」の字の下まで白く長方形に抜いたところに手書きの縦長ゴシックで「東都新報ホール」と、ここのみ横書き。その上に縦書きで6行、囃子方などスタッフが、まづ大きく3人、1行分空けて小さく2人並ぶが、判読出来ない。左端に手書きのやや横長ゴシックで「九月四日 午後六時開演」とある。「開」の門構えは略字。
 00:43:23〜31に「東都新報」昭和35年7月18日付の紙面が写される。(11)面で「12版●」である。「恐怖!!ガス人間現わる」という恐らく全面を使った大きな記事で、「[銀行ギャング事件]に新事実/真犯人はガス人間水野」次いで「捜査陣面前で殺害/ガス化して悠々逃走」そして「藤千代釈放か?/ガス人間当局に強請」などと続き、非常に良く出来ているがやはり記事本文を読むのは難しい。この事件の概要を述べた主記事の左に「生物化学に一大波紋/「信じられぬ」田宮博士語る」とのコメントが写真入りで大きく載り、ご丁寧にも「ガス人間ガス化想像図」まで附される。ここに初めて登場する田宮博士(伊藤久哉)はその後重要な役割を果たすのだが、ガス人間第1号を生み出した佐野博士(村上冬樹)とは方向性は異なれど、ともに何とも浮世離れしたところがあって、研究バカとしての科学者が持たれている世間のイメージをよく表現している。
 00:50:37〜51:12、東都新報の「社会部長」のデスクの後ろにある横書きの予定表の黒板一番上の枠に「| 月 日  曜日|」と初めから入っており「曜」は日偏に「玉」。これに白墨で日付が「曜日」とはっきり読めるのだが、昭和35年8月4日は木曜日である。以下の表は「|デスク|早出|夜勤|宿直|遊軍||出張|公休」となっており、遊軍のみ2行ある。そして一番下の枠が「|備考|」で2行半分ある。デスクと遊軍と備考には記載なく、他には苗字や日付が書き入れてある。
 そして輪転機の廻る様子を写して、前の場面で京子から提案のあった、一面、5段抜きの社告「ガス人間に告ぐ」が明瞭に映し出される(00:51:20〜29)。
 01:05:13〜59、池田社会部長(松村達雄)に対して、葉山重役(山田巳之助)と梶本重役(熊谷二良)が春日藤千代新作舞踊発表会に東都新報ホールを貸さない決定をしたと伝える場面の最初に、例の予定表がちらと写る。日付は写らないが「曜日」と確認出来る。直後だとすれば8月5日と云うことになろう。
 01:11:54〜58に、蜩の声とともに会場を手書きゴシック体で「〈麻/布〉双葉会館」と改めた「春日藤千代/新作舞踊發表會」のポスターが写る。
 すなわち、昭和35年(1960)7月6日(水曜日)から9月4日(日曜日)まで、約2ヶ月間が作中の時期として設定されていることが、確認される。(以下続稿)

*1:2020年7月7日追記】落合橋については、この記事を投稿した3週間ほど後に、アシカガ(1976.7.4生)のブログ「アシカガの樹2016-10-10「ガス人間第一号 ロケ地探索 in あきる野 ② 落合橋」にて解決しています。私が除外してしまった(笑)秋川の落合橋でした。アシカガ氏は前後の記事で、地元民ならではの丹念な現地踏査の上でロケ地を特定しております。