瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

山岸凉子「ひいなの埋葬」(7)

 昨日の続きで、380頁1コマめのVictoria女王に由来するヨーロッパ各国王室の血友病系図について。
山岸凉子スペシャルセレクションIX『鬼子母神』(7)
 第「Ⅱ」世代に示される、アルバート・ヴィクトリア夫妻の子供は●2・□「Ⅱ−3 英国エドワード3世」・●4・■「Ⅱ−6 アルバート公レオポルド」・●8の5人です。
 「エドワード3世」では現在山岸氏が連載している作品で扱っている百年戦争を始めた人になってしまいますから、Victoria女王の長男は「7世」が正しいのですけれども、ここでまづ、英国王Edward VII(1841.11.9〜1910.5.6)は血友病ではないことに気付かされます。彼を示す□の下には縦線|があって以下省略みたいになっているのですが、これが現英国王室に続いている訳です。しかし、現英国王室に血友病の話を聞きません。――血友病は劣性遺伝子に起因する「伴性遺伝」ですから、X染色体にスペアのある女性は(両親から血友病のx染色体を受け継がない限り)血友病になりません。男性は父親(YX)からY染色体、母親が保因者(Xx)であっても問題のない方のX染色体を受け継げば(XY)血友病にならないし子孫にも伝わらないのです。従ってシズオが「彼女の息子はみな死んだけれど」と言っているのは間違いです。そして、母親から血友病のx染色体を受け継ぐと(xY)血友病になります。それが、この系図に載るVictoria女王の子供の中で唯一■で示される、Victoria女王の第8子(四男)Prince Leopold, Duke of Albany(1853.4.7〜1884.3.28)です。しかし彼も、この系図に示されているように結婚して子供もおり、仮に血友病患者であっても、シズオの言うように「成人した男子は一人としていな」かった訳でもないのです。かつ、この系図に省かれている次男と三男も血友病ではありませんでした。
 この系図にはVictoria女王の娘5人のうち、子孫に血友病が出なかった三女と、子供の出来なかった四女が省かれて、保因者(及びその疑いのある)3人だけが●で示されています。左端の□は「Ⅱ−1 ドイツ皇帝フレデリック3世」Friedrich III(1831.10.18〜1888.6.15)で、長女 Victoria(1840.11.21〜1901.8.5)の夫です。「Ⅱ−5 ヘッセ大公ルードヴィッヒ」Ludwig IV(1837.9.12〜1892.3.13)は次女 Alice(1843.4.25〜1878.12.14)の夫で、この「4」に当たるアリスには上に繋がる縦線|が脱落しています。そして「Ⅱ−9 バッテンバーグ公ヘンリー」Henry of Battenberg(1858.10.5〜1896.1.20)は五女 Beatrice(1857.4.14〜1944.10.26)の夫です。
 第「Ⅲ」世代は、まづ長女の息子3人が□■□として示されます。うち3人め「Ⅲ−3 ドイツ王子ハインリッヒ」Heinrich(1862.8.14〜1929.4.20)は次男で、「1」に当たるのが長男がドイツ皇帝 Wilhelm II(1859.1.27〜1941.6.4)です。この2人に挟まれているのは、「Ⅲ−3」が従姉妹と結婚したために、弟と順序を入れ替えたようですが、夭折した三男 Sigismund(1864.9.15〜1866.6.18)と四男 Waldemar(1868.2.10〜1879.3.27)も血友病の疑いと云うまでであるようです。他に娘が4人いましたが、長女の一人娘と次女には子供が出来ず、三女・四女の子孫には血友病患者は保因者は認められません。
 「Ⅲ−3」と結婚した「4」に当たる三女 Irene(1866.7.11〜1953.11.11)を初めとする「Ⅱ−5」の子供たちで●■○●の順で並んでいますが、これもやはり長幼の順だけではないようです。血友病患者の「5」に当たるのは夭折した次男 Friedrich(1870.10.7〜1873.5.29)で「7」に当たるのは「Ⅲ−8 ロシア皇帝ニコライ2世」Nikolai II(1868.旧5.6〜1918.旧7.4)と結婚した 四女 Alexandra Feodrovna(1872.6.6〜1918.旧7.4)ですが、「6」に当たる○は、子供に血友病患者・保因者の出なかった長女か、子供の出来なかった次女か、夭折した五女か分かりません。ここはむしろ「Ⅱ−5」の後を継いでヘッセン大公となった長男 Ernst Ludwig(1868.11.25〜1937.10.9)を□として■の前に示すべきだったように思います。
 Victoria女王の子供でただ一人血友病患者だった「Ⅱ−6」の子供は「9」に当たる娘 Alice(1883.2.25〜1981.1.3)が示されるだけですが、その弟で祖父アルバート(Victoria女王の夫)の実家・ザクセンコーブルク=ゴータ公位を継承した Carl Eduard(1884.7.19〜1954.3.6)が血友病患者でなかったためか、省略されています。アリスは「Ⅲ−10 テック公アリグザンダー」Prince Alexander of Teck(1874.4.14〜1957.1.16)と結婚して、子供に血友病患者・保因者の出なかった長女と、血友病患者の長男、生後まもなく死亡した次男を儲けました。
 「Ⅱ−9」の子供たちは■■●で示され、「13」に当たる娘 Victoria Eugenie(1887.10.24〜1969.4.15)は右端の□「Ⅲ−14 スペイン王アルフォンソ13世」Alfonso XIII(1886.5.17〜1941.2.28)と結婚しました。「11」に当たる次男Leopold(1889.5.21〜1922.4.23)と「12」に当たる三男 Maurice(1891.10.3〜1914.10.27)は血友病患者でしたが、そうでなかった長男は省略されています。(以下続稿)