瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

宇井無愁の上方落語研究(6)

角川選書11『日本人の笑い』(5)
 順序からすると前回の3版の奥付に続いて六版の奥付について詳述するべきであるが、3版の返却期限が来てしまったので、先に3版を最後まで、適宜六版と比較しつつ記述して置く。
 奥付の裏に角川源義「この書物を愛する人たちに」があるのは同じだが、3版と六版では組み方が大きく異なっている。なお、この角川選書の改装は、角川書店創業者・角川源義(1917.10.9〜1975.10.27)死去による長男・角川春樹(1942.1.8生)への代替わりに伴うものである。
 3版は上下に子持線(9.0cm)がありその間(12.2cm)に明朝体縦組みで、まづ3字下げでやや大きく題があり、1行分空けて以下の本文(改行位置を「/」で示した)、日付はやや小さく、名前はやや大きい。
 六版も縦組みで全般に文字が小さい。まづ縦線(13.3cm)が2本あり、その間(0.6cm)の上部にゴシック体で「角川選書」、次いで1行弱空けてゴシック体8字下げで題、1行分空けて明朝体の本文、段落を作らず句読点で切って改行し、行頭1字下げもない(改行位置を「|」で示した)。従って原文が3段落であったことが分からなくなっている。なお、題と本文の4行めまでは8字下げになっているが、カバー表紙・背表紙にもあった羽を銜えて翼と脚を拡げた鳳凰のマークがあるからである。そして最後の行の上部にやはり字下げなしでやや小さく日付、下部に字間を詰めてやや大きく名前(その下に8字分)。

 詩人科学者寺田寅彦は、銀座通りに林立する高層建築をたとえて「銀座アルプス」と呼/んだ。|戦後日本の経済力は、どの都市にも「銀座アルプス」を造成した。|アルプスのなか/に書店を求めて、立ち寄ると、高山植物が美しく花ひらくように、|書物が飾られている。/|印刷技術の発達もあって、書物は美しく化粧され、通りすがりの人々の眼をひきつけてい/る。|しかし、流行を追っての刊行物は、どれも類型的で、個性がない。
 歴史という時間の厚みのなかで、流動する時代のすがたや、不易な生命をみつめてきた/先輩たちの発言がある。|また静かに明日を語ろうとする現代人の科白がある。これらも、/|銀座アルプスのお花畑のなかでは、雑草のようにまぎれ、人知れず開花するしかないのだ/ろうか。|マス・セールの呼び声で、多量に売り出される書物群のなかにあって、|選ばれた/時代の英知の書は、ささやかな「座」を占めることは不可能なのだろうか。
 マス・セールの時勢に逆行する少数な刊行物であっても、この書物は耳を傾ける人々に/は、|飽くことなく語りつづけてくれるだろう。私はそういう書物をつぎつぎと発刊したい。/|真に書物を愛する読者や、書店の人々の手で、こうした書物はどのように成育し、開花す/ることだろうか。|私のひそかな祈りである。「一粒の麦もし死なずば」という言葉のよう/に、|こうした書物を、銀座アルプスのお花畑のなかで、一雑草であらしめたくない。
  一九六八年九月一日
                              角 川 源 義


 最後に目録が4頁あるのは同じ。六版の目録には2月9日付(2)でも触れたが、小口側に「この書物を愛する人たちに」と同じく、縦線(13.3cm)2本の間(0.6cm)の上部にゴシック体「角川選書」、そして上下2段組で1段に12点ずつ、例えば1頁め上段の11行め「11日本人の笑い――――――宇井無愁」の如く、番号と標題、著者名を示す。
 3版は1頁に5点ずつ、レイアウトは同じで上部小口寄りにゴシック体横組みで「●現代人のための思索と教養の書」とあり、他は縦組みで、縦線(12.2cm)が6本、左右2本が太線(間隔8.5cm)でその間の4本は破線、小口側の太線の外側に下寄せで「●角 川 選 書 」とある。六版と違って番号は入っていないが、六版の目録と対照するに、3頁めまでは順番通り15点、3頁めの1点めが本書で、上部に明朝体で大きく「日 本 人 の 笑 い」左に下寄せ*1で小さく「宇 井 無 愁」と添える。その下、標題から1字分空けて明朝体で小さく3行、

民族の心は笑いの誕生とともにある。本書は笑いの歴史的/考察、日常的笑いとそのニュアンスなど、笑いの諸相につ/いて蘊蓄を傾けた好著。

とある。
 問題があるのは4頁めで、1点めエンリケ・エナメス/福島正光訳『フィデル・カストロ』は六版には「17フィデル・カストロ―――〈E・メネセス/福島正光=訳〉」とあり、3点め牧田茂『民俗学入門―生活の古典―』は「16生活の古典民俗学入門――――牧田 茂」とあって、刊行順及び標題が副題と入れ替わっており、どうもこの4頁めは近刊予定書目らしい。次に示した書影は改装後のもの。

 4点め増谷文雄『仏  陀―その生涯と思想―』は「18仏陀―その生涯と思想―――――増谷文雄」、もとは仏教雑誌「大法輪」の連載で、昭和31年(1956)1月に「角川新書」に収録されるに際して割愛した章を復活させた改版である(294〜295頁「あとがき」)。
仏陀―その生涯と思想 (1956年) (角川新書)

仏陀―その生涯と思想 (1956年) (角川新書)

仏陀―その生涯と思想 (1969年) (角川選書)

仏陀―その生涯と思想 (1969年) (角川選書)

仏陀 その生涯と思想 (角川選書 18)

仏陀 その生涯と思想 (角川選書 18)

 現行の装幀の角川選書(昭和四十四年四月三十日初版発行・平成十六年五月十五日三十版発行・定価1600円・295頁)まで増刷を重ねている。
 5点め田村芳朗『日本仏教史入門』は「25」で、若干刊行が遅れたらしい。
日本仏教史入門 (角川選書 25)

日本仏教史入門 (角川選書 25)

日本仏教史入門 (1969年) (角川選書)

日本仏教史入門 (1969年) (角川選書)

 さて、2点め吉田精一『日本近代詩入門』であるが、角川選書としては刊行されていない。下部の紹介文を抜いて置こう。

「鑑賞は創作なり」とする著者が、近代詩の誕生とその終/焉、難解といわれる現代詩の歩んだ道とその世界を史的に/つづった、若い人たちのための詩鑑賞の入門書。


 同じ著者・同じ標題で昭和28年(1953)に要選書44(要書房)として刊行されていたものを収めようとしたらしい。しかしながら、何らかの故障が生じて角川選書には入らず、昭和46年(1971)に版元を変えてアテネ新書(弘文堂書房)から、同題で刊行されたもののようである。(以下続稿)

*1:「の」と同じ高さから。