瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

森於菟『父親としての森鴎外』(4)

 文庫版の長沼行太郎解説 一つの鴎外論」の最後「書誌的なデータ」を述べた箇所、1月12日付(3)に引いた続きを見て置きましょう。435頁10〜13行め、

 本書所収の諸編は、たびたび再録、補筆されているので、時に文意のとおりにくい箇所/もある。たとえば、「観潮楼始末記」の「上」に先立つ前書きは、昭和三六年學生社発行/の随筆集『医学者の手帖』に収録の際書き加えられたもので、したがって文中「この随筆/集」とあるのは本来これを指すが、「追記」はこの筑摩版では省かれている。


 これは「再録、補筆」の問題と云うよりも、1月4日付(1)に見た、叢書版及び文庫版(すなわち筑摩版)の森富貴「あとがき」から窺われる、時間的に余裕のない編集と1月8日付(2)に指摘した、叢書版に補った文章について、初出情報を特に説明しない方針を採ったこと*1とが影響しているように思うのです。
 長沼氏が持ち出している科学随筆全集9『医学者の手帳』昭和36年12月・学生社)は、安騎東野(1896.12.2〜1973.7.20)緒方富雄(1901.11.3〜1989.3.31)小川鼎三(1901.4.14〜1984.4.29)森於莵の4人の随筆を収めています。このシリーズ、吉田洋一・中谷宇吉郎・緒方富雄 編『科学随筆全集』全15巻(昭和36〜38年・学生社)は国立国会図書館デジタルライブラリーでは「国立国会図書館/図書館送信限定」公開なので閲覧は出来ませんが目次は分かります。なお、何故か第9〜第15の7冊については昭和41年版も所蔵されており、やはり「国立国会図書館/図書館送信限定」公開ですが国立国会図書館デジタルライブラリーに収録されています。さらに 吉田洋一・緒方富雄・坪井忠二 編『続科学随筆全集』全10巻(昭和43〜44年・学生社)が続刊されました。吉田洋一・中谷宇吉郎・緒方富雄・坪井忠二 編『科学随筆文庫』全40巻(学生社)はこの『科学随筆全集』正続全25巻を(恐らく)再編成したもので、緒方富雄(11篇)森於菟(12篇)の2人分が科学随筆文庫25『医学者の手帖』(昭和53年9月20日 初版印刷/昭和53年9月25日 初版発行・定価580円・202頁・新書判並製本)として収められているのです。

医学者の手帖 (1978年) (科学随筆文庫〈25〉)

医学者の手帖 (1978年) (科学随筆文庫〈25〉)

 細目は一致、巻末(202頁上段7〜8行め)にも、

 なお本書所収の随筆は「科学随筆全集」学生社版)/第九巻に収録された。

とあります。
 さて、「観潮楼始末記」の前書き及び「追記」の問題ですが、新書版・叢書版(文庫版)に科学随筆文庫(科学随筆全集)版を対照するに、長沼氏が指摘しているよりも僅かではありますが複雑になっていますので、この点、次回少し細かく確認して見ようと思っています。(以下続稿)

*1:叢書版は著者歿後、未亡人が主体になった編集で、著者本人の「追記」と編者による「追記」が紛れることを憚ってこのような方針を採ったように思われます。なお、これについて1月8日付(2)には事実誤認があったので訂正しました。