瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

山田野理夫『アルプスの民話』(2)

 昨日の記事、諸版については③1965年版と⑥1976年版を追補した。番号もずらしたが過疎ブログのこと故(笑)影響はないであろう。
 それはともかくとして、私が見た①上製本と⑤潮文社新書新装版の内容について見て置こう。但し手許にあるのは①のみで、⑤はこの1年余見る機会を得られない(と云うか都内に出ることを控えている)。
 ①と⑤の本文は同版。従って②~⑥の潮文社新書版も変わりないと思う。①は余白が広く取ってあった。
 異同は1~4頁「はしがき」の最後、4頁4行めから抜いて置こう。①上製本は、

 山の音楽とともに、民話が語り伝えられるよう願っています。

     一九六二年四月

                            山 田 野 理 夫


 年月の前後は1行弱空ける。著者名はやや大きい。以下7行分は余白。
 ⑤新書新装版は、

 山の音楽とともに、民話が語り伝えられるよう願っています。(一九六二・四)


   新書のことば

 昨年、日本ペンクラブより英文名簿作成するにつき、自選の著作三冊を挙げてほしいと/いってきた。わたしは共著を除き著作十三冊より、ただちに脳裡に泛んだのは、「南部牛/追唄」「魯迅伝」とともに「アルプスの民話」である。この著も小島正氏のご好意により/前記二冊の仲間入りして、潮文社新書に加えられることになつたのを非常によろこぶ。ア/ルプスの山もその民話も、すべてあなたがたのものである。ご愛読を祈つている。
     一九四〇年一月一四日
                             山 田 野 理 夫

と余白を埋める追加があるのだが「一九四〇年」は「昭和四〇年」の誤りだろうか。⑤は8月発行だから1月付「新書のことば」はそれより前の、新書に収まったときのものと見たいのだが、②昭和38年版は11月発行だからやはり時期が合わない。「日本の古本屋」で検索するとヒットする(従って未見)昭和40年(1965)新装版がこれに当たるようだ。いづれにせよ奇怪な誤りで、それが数年後の増刷⑤昭和47年(1972)版でも放置されていたことになる。
 奥付の文字は全て明朝体、①上製本は縦組みで、中央に上下2段、上段にはまづ大きく標題、1行分空けて「協定により検印廃止」、1行分空けて著者名があって、続けて4~9行めに小さく、

東北大学国史を専攻後、宮城県史編纂委員/現在、郷土資料調査所員・作家・第六回農民/文学賞受賞・主著「宮城の民話」、「日本の山/の民話」、「海と湖の民話」、「南部牛追唄」、/「魯迅伝」など。(号・魯斎)
   住所・東京都世田谷区世田谷四の六五〇

との紹介がある。『宮城の民話』は未来社「日本の民話」シリーズの1冊で昭和34年(1959)刊、『海と湖の民話』は本書と同年の刊行だが『日本の山の民話』が分からない。『南部牛追唄』は昭和36年(1961)刊で昭和37年(1962)の第六回農民文学賞を受賞している。川口則弘サイト「文学賞の世界」の「農民文学賞受賞作候補作一覧」に、第6回について「=[ 媒体 ] 『農民文学』29号[昭和37年/1962年8月]発表」とあって本書よりも後に刊行された、主催の日本農民文学会の機関誌「農民文学」第29号(昭和37年8月)に、60~62頁「第六回農民文学賞発表」として出ている。少々奇妙だが、当時の「農民文学」は不定期刊行で、第28号(昭和36年12月)から間が空いたので誌面で初めて発表する、と云うことにならなかったようで、ネット検索情報だが昭和37年4月13日に東京市ヶ谷の私学会館で「山田野理夫農民文学賞受賞祝賀会」が開かれており、それより前に別の媒体で発表されていたようだ。『魯迅伝』も昭和39年(1964)潮文社が初刊で、それ以前には『魯迅』と云う著書があるのみ、これを改稿して『魯迅伝』と題して潮文社から刊行する予定が、既にあったのだろうか。
 その、オークションサイトに上がっている潮文社新書『魯迅伝』(昭和39年 4 月20日発行 ©・¥  250)の奥付を見るに、横組みで、

東北大学国史を専攻後,宮城県史編纂委員,現在 郷土資料調査所員/作家・第六回農民文学賞受賞・主著「宮城の民話」,「アルプスの民話」/「海と湖の民話」,「南部牛追唄」,など。(号・魯斎)
 現住所・東京都世田谷区世田谷 4 の 650

とある。『魯迅伝』の奥付だから「魯迅伝」が省略されているのは当然だが、もう1箇所異なるのは「日本の山の民話」だったところが「アルプスの民話」になっていることである。――当初、本書は「海と湖の民話」と対になる「(日本の)山の民話」として構想され、そして最終段階で「アルプスの民話」に変更されたのであろう。「アルプスの民話」と云うと普通は『アルプスの少女ハイジ』ではないがヨーロッパのアルプスのことと思う*1。実際、そう思って買ってしまった人もいたのではないか。少々、いや、相当詐術めいた標題である。そして、本書の奥付では、題が違っているのでうっかり「日本の山の民話」と云う別の本のように思って見落としたのであろう。校正時、本人もうっかり見落としたのか、それとも本当に最終段階での改題だったのか。
 下段はまづ発行日、2行めは下寄りに定価、以下「編 者   山 田 野 理 夫/発行者   小  島  米  雄/印刷者   磯  貝  兌  雄/発行所   潮  文  社」版元名のみ大きく、その左にごく小さく「東京都新宿区市谷田町三ノ二一/振替口座 東京 六九一〇七番」とある。前回注意したように最初の2行を除いて②潮文社新書版も同じ。
 ⑤新書新装版は横組みで上部中央に標題、その絵に検印紙(縦2.2cm×上辺2.3cm下辺2.2cm)黄色で「潮文/社印」と刷った上に楕円朱文印「山田」。その下に「山田野理夫」の紹介、

大正11年,仙台に生まる。東北大学文学部史学科卒。/宮城県史編纂委員。第六回農民文学賞受賞。日本文/芸家協会員。日本ペンクラブ会員。著書に「奥羽の/幕末」「ふるさとの民話」「日本妖怪集」「日本怪/談集」「海と湖の民話」その他がある。
東京都狛江市和泉511―18

とあって太線(7.3cm)、次の太線(5.5cm)との間(3.0cm)に「昭和47年 8 月30日発行     © 新装版 ¥ 380」とあり、続いて右詰めで「編著者    山 田 野 理 夫/発行者    小  島  米  雄/印刷所    赤城印刷株式会社」とあって、その下の太線と最下部の太線(7.3cm)までの間(1.2cm)に「発行所」その右に4行でごく小さく「〒160/東京都新宿区坂町 23 番地/電話 東京 3573261(代表)/振  替・東 京 6 9 1 0 7」そして大きく「〈株式/会社〉 潮 文 社」とある。最下部の太線の下、左寄りに小さく「落丁本・乱丁本はおとりかえします」右寄りにごく小さく「(千代田製本)」その下に「0293―0016―4664」とある。
 ②~⑥の潮文社新書は、増刷に際し初版発行日を示していないようだ。「新装版」とあれば以前の版があることは察せられるけれども。
 奥付裏からそれぞれ目録があるが、長くなったので別の機会に取り上げることとしよう。(以下続稿)

*1:「新書のことば」に見える、日本ペンクラブの英文名簿では「Alps」ではなく「Japanese Alps」としたであろうか。