瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤堀又次郎伝記考証(19)

・赤堀象万侶④上田仲敏
 最初「犬山壮年會雜誌」に赤堀象万侶の名を見付けたとき、親類だろうと思った。その後近藤秀胤書写本『犬山里語記』に赤堀象麻呂藤原朝臣秀雅の名を見て、赤堀氏の祖父か父ではないか、と思った。その後気を付けていると、赤堀氏と赤堀象万侶との関係を明記した文献に逢着した。まぁ国立国会図書館デジタルコレクションだから居ながらにしてなのだけれども。
・吉川芳秋『蘭医学郷土文化史考』昭和三十五年四月五日印刷・昭和三十五年五月五日発行・非売品・吉川芳秋・前付+263頁
 87~100頁「幕末における尾張蘭学者・上田仲敏」
 冒頭、87頁2~5行め、

 我が国国語学界の元動であり明治、大正にわたつて日本の教育行政に多大の功績があつた上田/萬年文博は、旧尾張藩士上田虎之丞の長男として、慶応三年正月七日江戸大久保新屋敷に生れ、/昭和十二年十月二十六日午後七時五十五分東京小石川区駕籠町の自邸で、享年七十一をもつて長/逝された。博士が作られた

との簡単な紹介に続いて6~13行め、名古屋市歌を引用して導入としている。そして88頁1~4行め、

 その上田博士が、本家の上田仲敏のことについて、当時存命した上田家の用人渡辺領助から教/えられたところなどをもととして、名古屋史談会が設けられて、史料展覧会が開催された際に、/「上田帯刀の事蹟に就いて」と題して講演されたその速記錄が、明治四十三年八月発刊の『名古/屋史談会誌』第一卷第一号に収載されている。

と本題に入る。8行め~89頁4行め(一部省略)、

 名古屋史談会誌上から博士の講演を摘記してみると、
           ×
 「上田仲敏は通称が帯刀、姓は橘氏、伝ふる所によると楠氏の後裔で、菊水の紋章ある旗伝は/りたる為、号を菊の家と云つた人であります。‥‥/‥‥。而して文久三年五月に亡くなり、年は五十五歳、市内東輪寺/に葬つてあります。伝ふる所で見ると仲敏の伝記は一半は和漢の学に熱心し、一半は蘭学に熱心/であつたことが知られる。和歌の上から云へば、中々多くの短冊がありまして、私は段々あつめ/て居りますが、極めて趣味に富んで居られた様である。本居大平の門人であつて其の門人帳に拠/れば上田賴母、御野*1と云ふ名がある。妻は甲斐子と云つた。帯刀が別に賴母及び御野*2と云つたか/【88】否かは分らぬが、或は門人帳の誤りか其の辺は能く分りませぬが、好く歌人を集めて和歌の会を/催した、赤堀又次郎氏の父象麿*3と云ふ人に聞くと、屢次左様の人々が出入したと云ふことです。/曾て君公(尾州公)の先騎をして江戸に往く時分に、駿河路にて天気晴朗の日、君公より料紙硯/筥を賜つて和歌詠めとありければ、即時に読める和歌に「‥‥


 講演速記に余り手を入れていないらしく、赤堀氏の父の登場する辺りの意味が余り明瞭ではない。上田仲敏と赤堀象万侶は和歌の会でしばしば顔を合せていたことは分かるのだけれども。ここにルビ「まさまろ」とあるが「象」なのだから「きさまろ」の誤植だろう、どの段階で誤ったのか知らんけど。
 出来れば初出の「名古屋史談會誌」に就いて見たいと思ったのだが国立国会図書館には所蔵がない。
・「郷土文化」第28巻第3号(通巻109号)昭和四十九年 三月二十五日印刷・昭和四十九年 三月三十一日発行・名古屋郷土文化会・80頁
 47~73頁、吉川芳秋「名古屋史談会とその会誌など(上)」に拠ると、47頁上段6~17行め、

‥‥、明治四十二年十一月七日午後二時か/ら名古屋市会議事堂において発会式を挙げ、来名された東京/帝国大学文科大学教授文学博士上田萬年氏、同文科大学講師/文学博士喜田貞吉氏並に熱田神宮々司角田忠行氏の左記講演/があった。
 尾張の名称と熱田神宮の御神德
              角田忠行氏
 実地調査の必要を述べて名古屋史談会に望む
          文博  喜田貞吉
 上田帯刀の事蹟に就いて
          文博  上田萬年氏
又別室では、市史編纂係や諸家所蔵の史料、特に‥‥

とあり講演の日時が、そして「名古屋史談会誌」については54頁下段18行め~55頁上段1行めに、

第一巻第一号(明治四三・八・一二発行)
◯講演

 上田帯刀の事蹟に就いて     文博上田萬年 (一)
 実地調査の必要を述べて名古屋史談会に望む
                 文博喜田貞吉 (五)
 植松茂岳略伝       外孫水谷弓夫口述稿(一七)
◯彙報 ◯本会記事
◯名古屋史談会規則              (二二)
◯名古屋史談会会員名簿            (二三)

とあって発行年月日と掲載箇所が分かる。
 さて、上田氏と赤堀氏の間には微妙な問題があったらしいのだが、それについては追って述べることとする。(以下続稿)

*1:ルビ「み  の 」。

*2:ルビ「  みの 」。

*3:ルビ「まさまろ」。