瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤いマント(185)

田辺聖子『私の大阪八景』(4) 小学校名の確認
 昨日の続きで、今日は早速赤マントに関する記述を抜いて検討を加えて行こうと思っていたのだが、早速躓いてしまった。
 それと云うのも、舞台となった主人公が通う小学校が、『全集』第一巻14頁16~17行め(岩波現代文庫10頁5~6行め・角川文庫(改版)13頁14~15行め)、*1四年生の弟と三年生の妹が「‥‥、上]品な中之島小学校へ通わされて、トキコひと/り、がらの悪]い福島小学|校へ通っているのも怪しからん話である。‥‥*2」とあるのだが、6月25日付(183)の最後に引いた、『全集』別巻1の「年譜」昭和9年(1934)4月条には「大阪市立上福島尋常高等小学校に入学。」とあるのである。少々面喰って、差当り Wikipedia を参照するに、戦前、上福島尋常高等小学校と云う学校はなかったようだ*3大阪市第一上福島尋常高等小学校が、昭和16年(1941)に国民学校令により上福島国民学校と改称され、戦災によって福島国民学校へ統合・休校となった時期を経て上福島小学校となっている。そして大阪市二上福島尋常高等小学校が国民学校令により福島国民学校と改称され、戦後大阪市立福島小学校となっているのである。
 田辺氏が入学したのはどちらかと云うと、第二上福島尋常高等小学校の方で、本作では田辺氏は、執筆時点での呼称である「福島小学校」としている訳である。『全集』別巻1の「年譜」昭和9年(1934)4月条に赤い字で添えてある『田辺写真館が見た ”昭和” 』からの引用にも、単行本から引くと107~116頁「昭和初年の子供ファッション」の章(11章め)の115頁14~16行め、

 つづく昭和九年、私は福島小学校に入学した。当時に珍しく、男女混合のクラスであっ/た。男子ばかりのイ組、女子ばかりのハ組、男女混合のロ組。私はロ組へ入ったわけであ/る。校舎はこれも珍しい、鉄筋コンクリート四階建てのもの、‥‥

とあるのも同様に、現在の校名で呼んでいる訳だ。ところで「男女混合のクラス」が「当時に珍しく」とあるが、戦前のことを回想した文章を幾つか見た限りでは、大阪でも東京でも、学年に3クラスあれば、間の1クラスが「男女混合」になっていたようである。それなら全てのクラスを「男女混合」にしてしまえば良かったのではないか、と思われるのだけれども。
 同じく『全集』別巻1の「年譜」昭和14年(1939)条に赤い字で引かれている、小学校名の見える引用、その引用元の『楽天少女 通ります 私の履歴書』を参照するに、7~57頁「第一章 楽天人生のはじまり――夕焼け小焼けの下町育ちの40~57頁、2節め「昔のしつけ」*4の53頁4~10行め、

 五年に進級すると先生がかわった。今度の先生はいかにも|公平でさっぱりと、教えかた/も明快で、どうなったのか、に|わかに私は勉強が好きになったのである。六年生のとき、/姉|弟三人とも級長になったというので親バカちゃんりんの母は、|写真をとらせたりした。
 トータルして私は小学校では楽しい思い出が多かったとい|うほかない。第二上福島尋常/高等小学校。校長先生は北川馬次先|生だ。フルネームがすぐ出てくるからえらいものだ。/怖いが、|叱りかたがからっとしているから生徒たちは校長先生が好き|で〈馬チャン〉と愛/称していた。‥‥

とあって、現在の福島小学校の旧称を正しく書いている。『全集』別巻1の引用での改行箇所は「|」で示したが。同じ箇所のはずなのだけれども1箇所異同があって『全集』では何故か「上福島尋常高等小学校」と「第二」を省いているのである。
 当時、ただの「上福島尋常高等小学校」が存在しなかった以上、この『全集』「年譜」の「第二」を省いた処置は誤りなのだけれども、これも実は、上記のややこしい校名の変遷とも絡んで、田辺氏自身が『田辺写真館が見た ”昭和” 』の、先に引用した章に続く別の章で、錯誤を来してしまったところがあり、それに引き摺られたらしいのである。(以下続稿)

*1:6月30日追記】「・岩波現代文庫・角川文庫、」と頁行を入れ忘れていたのを補い、以下の引用に改行位置、岩波現代文庫「|」角川文庫「/」を補った。

*2:ルビ「なかのしま/け」。【6月30日追記岩波現代文庫は「中之島」にルビなし。角川文庫(改版)は「中の島」となっておりルビなし。【8月17日追記田辺聖子長篇全集1『花狩 感傷旅行 私の大阪八景』206頁下段19~21行め、ルビは「け」のみ、改行位置は「 ]」で追加した。

*3:大阪市立上福島小学校が、明治20年(1887)4月から明治28年(1895)3月まで西成郡上福島尋常小学校と称していた。

*4:【6月30日追記】灰色太字で示した箇所を補う。