瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

白馬岳の雪女(60)

 昨日の続き。
・橘正典『雪女の悲しみ』(2)
 奥付は横組みで、上部に[著者略歴]がある。「昭和4年 兵庫県加古川市に生まれる。/昭和29年 京都大学文学部卒業。/現  在 京都薬科大学教授/著  作 ‥‥」著作は5点、川端康成とフォークナーについての単著、高橋和巳に関する2点の共著、等である。
 京大時代に高橋和巳(1931.8.31~1971.5.3)や小松左京(1931.1.28~2011.7.26)と同人誌を出しており、両人に関する論考や回想を書いているので、ネットで検索するとそちらの方でヒットするが、多くはない。
 経歴については「ハーンとアンデルセン――あとがきに代えて――」の冒頭、195頁3~7行めに、

 二十歳代の後半から十年間、私は兵庫県の瀬戸内海に面した小さな港町の高等学校に英語教/師として勤務した。昭和でいえば三十年代であるが、毎年夏休みになると宿題として生徒たち/に簡単な英語の読物を読ませた。そのなかで、生徒に課した宿題であることを忘れて私自身が/熱中した読物が二つあった。一つはアンデルセン童話の英訳本であり、もう一つがハーンの/『怪談』である。

とある。――「兵庫県の瀬戸内海に面した小さな港町」と云うのが、どうもイメージしにくい。香住や浜坂なら如何にも「小さな港町」らしいけれども日本海側である。播州の赤穂や相生、飾磨、高砂と云った辺りになるのであろうか。神戸に比べれば、確かに「小さ」いけれども。
 本書は高校教師時代の読書体験を起点とする論考を2つ収めているのだが、ハーンについては「雪女の悲しみ」の部の3~8頁「序」の冒頭、3頁2行めに「 ラフカディオ・ハーンの怪談をまとめて読んだのは二十歳代の終りであったが、‥‥」、また「ハーンとアンデルセン」に戻って199頁14行め~200頁1行め「‥‥。以後、ハーンに関しては、折につけ、受動的に、読んだり聞いたりすることがあっ/ても、まとめて読んだことはなかった。今回はじめて、その著作の原文英文と日本語訳の大部/【199】分に目を通した。‥‥」と云った按配で、「雪女の悲しみ」は書き下ろしらしい。
 念のため、橘氏が他にハーン関係の文章を発表していないか、7月21日付(02)に見た、富山大学附属図書館 編纂『富山大学ヘルン文庫所蔵小泉八雲関係文献目録』改訂版を検索してみた。結果は「著者・編者・訳者索引及びその文献」A-75頁35行め「橘正典」は36行め「雪女の悲しみ (東京、 図書刊行会 1993)」が挙がるのみである。そこで指示されている92頁を見るに、28~32行め(改行位置「|」)に、

雪女の悲しみ : ラフカディオ・ハーン「怪談」考 / 橘正典著.―東京 : 図|  書刊行会,1993.-206p ; 20cm. - ISBN:4336035202
  内容:序 体験 美と倫理:ポーとハーン1 美と倫理:ポーとハーン2 怪異譚|  1 怪異譚2 結び「雪女」 人魚姫の憂愁:アンデルセン童話考 ハーンとアン|  デルセン:あとがきに代えて

とある。国書刊行会を図書刊行会に誤っている。
 一方、アンデルセンの方は、196頁1行め「もう少し系統的に考えてみようと思い立」ち、『即興詩人』『絵のない絵本』『アンデルセン自伝』も読み、山室静(1906.12.15~2000.3.23)に手紙を出したりして「同じ年の秋」に童話論を書き上げ、196頁13行め~197頁5行め、

‥‥、書き上げたあとしばらく放っておいたが、昭和三十八年/に富士正晴の主宰する同人雑誌『VIKING』に参加したとき、『身を捨ててこそ浮かぶ瀬/もあれ――アンデルセン童話考――』と題して同誌一五五号に発表した。これが本書の『人魚/姫の憂愁――アンデルセン童話考――』の原型である。【196】
 今回、この本に入れるに際し、初出稿に手を加えタイトルも改めた。ただし、手を加えたと/いってもアンデルセンの童話に対する私の考えはいささかも変わっていない。手を加えたのは、/もっぱら、当初は勢いに任かせて書き流したのを、そののちいくらか読みえた関係書物を参考/に、全体を整序したにすぎない。その場合も、原文の文調や言葉使いはなるべくそのままにし、/新たにえた知識や考えはこれを補注の形で後においた。


 富士正晴(1913.10.30~1987.7.15)については、当ブログでは長沖一『上方笑芸見聞録』の解説に当たる文章を引用したくらいで、もっと色々と取り上げているつもりが記事にしていなかった。文芸同人誌「VIKING」は現在も刊行されており、HPによって全号の目次を閲覧出来る。
 「VIKING」155号は昭和38年(1963)10月号なのだけれども「(ジャンル・作者)評論・楠正典(タイトル)身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ― アンデルセン童話考(占有頁数)(21)」と、著者名を誤っている。「橘正典」では他に4点がヒットするので、合計で5回寄稿したことになる。(以下続稿)