瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

赤いマント(292)

北杜夫の赤マント(7)
 ここで『南太平洋ひるね旅』の本文を引用する前に諸本の比較をして置こうと思ったのですが、これは後日果たすことにして、ここでは赤マントに関連する記述に絞って見て置くこととしましょう。と云って、当ブログのことですから赤マント関連の記述のみを抜いて足れりとはしません。
 今日の仕事帰りに図書館に寄って、先日予約を入れて置いた次の本を借りて来ました。
北杜夫マンボウ響躁曲 地中海・南太平洋の旅昭和五十二年十一月一日 第一刷・昭和五十三年 一 月十日 第二刷・780円・文藝春秋・245頁・四六判上製本*1
 195~245頁に、10月28日付(290)に引いた『見知らぬ国へ』編集部注にあったように、昭和51年(1976)4月の南太平洋再訪時の紀行「マンボウ南太平洋をゆく」が収録されております。
 昨日「韓国人の医者の‥‥奥さん」に会う場面はないだろうとの見当を示しましたがやはり見当たりませんでした。
 細かい内容については、追って文庫版と比較しつつ述べることとしましょう。しばらくは『南太平洋ひるね旅』の補足となる箇所に言及するに止めます。

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 まづ「韓国人の医者」を北氏に紹介した人物から見て置きましょう。
 飛行機が遅れて昭和36年12月15日午前2時にハワイのホノルルを飛び立って朝、タヒチに到着し、タクシーで予約してあったグランド・ホテルに向かう。そして早速カメラ2台と竹竿を持って外出する。文庫版57頁10行め~58頁1行め(改行位置「/」)、全集165頁上段16行め~下段1行め(改行位置「|」)、【11月19日追記11月14日付「北杜夫『南太平洋ひるね旅』(03)」に挙げた①初版(ポケット・ライブラリ)と②新装版の位置を「\」で追加した。66頁7~14行め。なお、章立てと頁については11月17日付「北杜夫『南太平洋ひるね旅』(06)」を参照。

‥‥。\しば/らく|行くと、右手に郵便局がある。むかし移\民できた/日本人で|タヒチに住みついている人があ\る。それは紺/野さんといっ|て、この郵便局に勤め\ているそうであ/る。そういうことを、|私は少し前\この地を訪れた朝日/新聞の記者から聞いていた\|し、ハワイで会ったマダ/ム・キニーからも聞いて\いた。し|かし、タヒチに着い/たばかりのうちに日\本人に会うのはや|【165上】めようと思っ/【57】た。郵便局を横目で見て私は通りすぎた。


 「朝日新聞の記者」のことは10月27日付(289)に引いた「後記」にも触れていました。今度「聞蔵Ⅱビジュアル」にて記事を探して見ましょう。
 「ホノルルで」会ったマダム・キニーは「正真正銘の日本人」で「以前タヒチに二十年住んでいた」ので、タヒチの事情に通じているのである。タヒチの前には「中国に十年」、「タヒチは離れたくなかったが、歳をとって身体がわるくなったので」ホノルルに移り「ハワイに六年いる」。大正末に China に行き、昭和10年(1935)頃にタヒチ、昭和30年(1955)頃からハワイ在住と云うことになる。
 それはともかく、北氏はパペーテの町を足のむくままほっつき歩くうち、文庫版64頁8行め~65頁3行め、全集168頁下段18行め~169頁上段13行め、【11月19日追記】①初版(ポケット・ライブラリ)と②新装版の位置を「\」で追加した。73頁14行め~74頁10行め。

‥‥。|何時間かまえの感激にひきかえ、正直\いってこのとき/私は|へたばっていたのである。
 私は往きにひきかえ、とぼとぼとホテルへの道を歩いて|いった。途中に郵便局がある。つ\【73】いふ/らふらと私はその中|へはいり、局員に、「ムッシュウ・コンノ?」と訊いてみ|【168】た。局員は\うなず/いて後ろの部屋にはいっていったが、そ|れきりいくら待っても出てこない。紺野老人\はもう七十/歳|をすぎている筈で、これはひょっとするともうみまかって|しまったのではない\かと私は思っ/た。
 しかしやがて局員は戻ってくると、私を電話口へ連れて|いった。いくらか東北弁の日本語\がき/こえてきた。紺野老|人は田舎*2へ出張していたので、私が日本からきた旅行者で|あるこ\と、そのう/ち一回お会いしたいむねを言うと、いま|日本の学者が二人パペーテにいる。ちょ\うどいいから夕/【64】方|ホテルに迎えにゆく、ということだった。
 紺野老人には会ってみたいが、一体どういう人か知らな|いがその日本人の学者とやらに会\うの/はしんどいなあ、と|疲れきった私は思ったが、そのまま受話器をおいた。


 ここだけ抜き出すと少々自分勝手な印象を受けますが、深夜の移動で殆ど寝ていなかった北氏は、この後検温して37.7℃、実際熱っぽくて「しんど」かったのです。(以下続稿)

*1:11月12日追記】投稿時、私が見ていた本を「第三刷」と誤っていたのを訂正。その後、第一刷も見た。

*2:文庫版ルビ「いなか」。