瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

北杜夫『南太平洋ひるね旅』(10)

新潮文庫2118(4)図版と「後記」
 それでは、本体を見て行きましょう。
 1頁(頁付なし)扉は同じに見えます。
 3~4頁(頁付なし)「目   次」、3頁は一致、4頁「10」から「15」までは一致、「15 旅の終り 」を例に取ると、下部の半角漢数字「二〇九」の間を三点リーダ24箇で繋いでいる。初刷は2行分空けて下寄りに「解  説  田 畑 麦 彦/イラスト  山 本 忠 敬」とあります。四刷は「15 旅の終り 」の左に、やや行間が詰まって2字半下げでやや小さく「後   記」、三点リーダ23箇で繋いで半角漢数字「 二二七」高さは「二〇九」より若干下。二十一刷・二十二刷・二十四刷は「後   記」を「旅」と同じ高さにして、その分三点リーダを1つ増やしていますが、3点め「・」が欠けて2点になっています。以下の23点の三点リーダと半角漢数字は四刷に同じ。それから2行分空けて解説とイラストの2行は同じ。「解説」の頁は初めから入っていません。田畑麦彦(1928.3.31~2008.6.6)は北氏とは同人誌「文藝首都」の仲間で、やはり同人だった佐藤愛子(1923.11.5生)と結婚(1956~1968)、佐藤氏の第61回(1969年上半期)直木賞受賞作『戦いすんで日が暮れて』に描かれた会社倒産、借金騒動の題材となった(?)人物です。

戦いすんで日が暮れて (講談社文庫)

戦いすんで日が暮れて (講談社文庫)

戦いすんで日が暮れて

戦いすんで日が暮れて

新装版 戦いすんで日が暮れて (講談社文庫)

新装版 戦いすんで日が暮れて (講談社文庫)

 5頁(頁付なし)中扉は同じ、中央上部に大きく標題、2行分空けて2字下げでやや大きく「ハワイ→タヒチ→フィジーニューカレドニアサモア」とあります。
 本文を細かく比較する余裕はないので、図版を点検して行くこととしよう。図版の位置とキャプション、①ポケット・ライブラリ(初版)②新装版との対応関係は11月17日付(06)に、③文庫版として示してあります。
・16頁下、キャプションは同じで図版が四刷のみ左右入れ替わっています。四刷では仮面を被った男が「左 クック諸島、マンガイア島の男」と云うことになりますが “A Voyage to the Pacific Ocean” VOL. Ⅲ.(1793)を見るに176~177頁の間に挿入される図版、右側に仮面を被った男の左右反転したイラストが「A MAN of the SANDWICH ISLANDS in a MASK」として掲出されております。すなわち仮面の男のイラストは初刷や二十一刷・二十二刷・二十四刷のように「右 ハワイ諸島、サンドイッチ群島の男」の方にあるべきなのです*1。ちなみに「サンドイッチ群島」は、ハワイ諸島キャプテン・クックが(勝手に)命名した名称ですから「ハワイ諸島(サンドイッチ群島)の男」とでもするべきでしょう。
・44頁右上、同じ写真だったが初刷は暗く、四刷はやや明るくなり、二十一刷・二十二刷・二十四刷は明るく明瞭です。61頁上・82頁右上の写真も同様。いや、全体的な傾向と云うべきでしょうか。
・58頁右上、大きさ(4.5×5.9cm)もキャプションも同じだが、初刷はオートバイに2人乗りする女性が左端に寄っており、右側が広い。四刷は左側がやや広くなりその分右が狭くなり、下は少し狭い。二十一刷・二十二刷・二十四刷は右側は初刷より若干狭く、左は四刷より僅かに広く、そして下はオートバイの車輪が収まるくらい広くなっています。すなわち、オートバイが全て収まるよう、やや縮小されております。
・69頁左下、四刷は余白で、初刷・二十一刷・二十二刷・二十四刷にあるダニエルソン撮影の写真がありません。
・81頁上・84頁上、四刷の写真は荒れていて、81頁の写真など人物の顔が違って見えます。
・116頁右下、初刷の写真は暗く、頭髪と背景の区別が出来ないくらい上半分が黒い。四刷は明るく、人物を拡大して上下左右を狭くしています。二十一刷・二十二刷・二十四刷は四刷と画面の範囲は同じですが、やはり非常に明瞭になっております。
 「15」章は226頁までなのは同じですが、次の227頁が初刷は「解   説」でしたが四刷・二十一刷・二十二刷・二十四刷は「後  記」です。初刷の227~233頁と、四刷・二十一刷・二十二刷・二十四刷229~235頁「解   説」は頁付以外一致しております。そして四刷・二十一刷・二十二刷・二十四刷「後   記」の、227~228頁1行めまでは一致、228頁2行め、四刷は「う。」とあって、1行分空けて下寄せでやや大きく「著   者  」とありますが、二十一刷・二十二刷・二十四刷は2行めの下、下寄せで小さく「(一九七三年記) 」と追加されていて、1行分空けてさらに(一九七六年附記)があるのですが、この辺りのことは10月26日付「赤いマント(288)」にメモして置きました。
 すなわち、四刷には11月18日付(07)に見たように、②新装版から引き継いだ「後記」があるのですが、その半年前の初刷にはこれがありませんでした。
 可能性としては、うっかり入れ忘れたと云うことも考えられましょうが、それよりも、――長く増刷され続ける(はずの)文庫版に、現時点のことを書き加えると、独立など変更が生じる度ごとに加筆しないといけなくなることを見越して「後記」を割愛したのだけれども、田畑麦彦「解説」の文中、初刷228頁(四刷・二十一刷・二十二刷・二十四刷230頁)12~13行め「‥‥。北君自身も、後書/きで、当時南太平洋の島々を旅した日本人はまだ少なかった、と書いているが、‥‥」とあるのを見て、やはり「後記」を載せて置いた方が良いとて一部書き改めた上で復活させ、ついでに一部、図版を差し替えたりしたと考えた方が良さそうに思います。(以下続稿)

*1:2020年12月17日追記】②新装版(12刷)19頁も文庫版の初刷・二十一刷・二十二刷・二十四刷に同じ。