瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

小説の設定

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(187)

・叢書東北の声44『杉村顕道作品集 伊達政宗の手紙』(10)「松尾芭蕉の手紙」② 昨日の続き。 50頁上段1~13行めは前置きで、以下、章分けは番号ではなく2行取りで中央にやや大きく「※」を打っている。以下、仮に【番号】を振りながらその位置を示し、それぞ…

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(186)

・叢書東北の声44『杉村顕道作品集 伊達政宗の手紙』(9)「松尾芭蕉の手紙」① 12月12日付(181)に引用した、杉村氏の次女・杉村翠の談話「父・顕道を語る」には、敗戦直後に刊行した小説本について「けれども、やはり筆で生活する夢はあったようです。」と…

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(185)

・叢書東北の声44『杉村顕道作品集 伊達政宗の手紙』(8)「伊達政宗の手紙」 さて、借り出した当日、駅や帰りの車中で土方正志「解説」や「底本一覧」を見ても各作品の執筆時期が説明されていなかったことから、その興味でまづ表題作を読み始めた。そして…

日本児童ペンクラブ『日本伝説傑作選』(3)

本書を確認しようと思ったのは、本書に載る「白馬の雪女」を、8月22日付「白馬岳の雪女(026)」に見たように、遠田勝『〈転生〉する物語』が白馬岳の雪女伝説の「口碑あるいは古い伝説として記録されたもの」としてリストアップしたものに含めていたからで…

白馬岳の雪女(075)

昨日の続き。 ・遠田勝『〈転生〉する物語』(34)「四」② 「四 ハーンの「雪女」を読む」の4節め、「母性の神話と父性の神話」の冒頭、前節の最後で、96頁5~6行め「お雪」が「十人という、/とほうもない数の子供を誕生させた」設定について、4行め「ハー…

白馬岳の雪女(54)

・遠田勝『〈転生〉する物語』(26)「一」8節め⑤ 昨日予告した、8節め「「雪女」と偽アイヌ伝説」の最後、青木氏が「白馬岳の雪女」を捏造した理由について、遠田氏の推測と、牧野氏の新稿に見える説を見た上で、昨日の検討を踏まえた上での私見を述べて置こ…

白馬岳の雪女(44)

仕事から帰って遅くなった昼食を済ませ、お茶を飲みながら録画して置いた笑福亭仁鶴追悼特集の「バラエティー生活笑百科」を見て、泣けて泣けて仕方がなかった。 私は仁鶴室長の全盛期も知らないし、落語も最近まで聞いたことがなかった*1。 兵庫県立高校時…

白馬岳の雪女(35)

・遠田勝『〈転生〉する物語』(15)「一」9節め② 昨日の続きで9節め「地名の魔力」の後半を見て行こう。39頁8行め~40頁6行め、 物語は地名をもとめ、地名は物語に魔力を与える。結局、白馬岳の雪女伝説の流布において、青/木の果たした最大の功績――これを…

白馬岳の雪女(34)

昨日の続き。 ・遠田勝『〈転生〉する物語』(14)「一」9節め① 8節め「「雪女」と偽アイヌ伝説」は続いて、これら、ハーン「雪女」翻案と一見判りにくい(だからこれまで指摘されて来なかった)『アイヌの傳説と其情話』の2例と、人名も行文も引き写している…

白馬岳の雪女(32)

昨日の続き。 ・遠田勝『〈転生〉する物語』(12)「一」8節め② 前回は前置きだけになってしまったが、8節め「「雪女」と偽アイヌ伝説」に紹介されている、青木純二『アイヌの伝説と其情話』の「雪の夜の白い女」について見て置こう。34頁13行め~35頁14行め、…

白馬岳の雪女(29)

昨日の続き。 ・遠田勝『〈転生〉する物語』(09)「一」6節め 30頁13行め~32頁10行め、6節め「バレット文庫の「雪女」草稿」の前半を抜いて置こう。30頁14行め~31頁8行め、 白馬岳の「雪女」伝説が、ハーンの「雪女」に由来するもうひとつ有力な証拠をあ…

白馬岳の雪女(11)

・辺見じゅん「十六人谷」(4)まんが日本昔ばなし② 昨日触れた「まんが日本昔ばなし〜データベース〜 ­⁃ 十六人谷」のコメント欄には22件のコメントがあるが、2012~2019年の18件は、一部に詳しい分析があるものの、殆どは、内容の怖さを訴えるものが多か…

白馬岳の雪女(09)

・辺見じゅん「十六人谷」(2) 昨日の続き。 辺見じゅん(清水眞弓。1939.7.26~2011.9.21)の「十六人谷」が従来の十六人谷伝説と大きく異なっているのは、生還者(弥助)に「けっして人に言うてはならん」との禁忌が課されることである。そしてそれが、…

芥川龍之介「尾生の信」(3)

昨日の続きで、芥川が参照したらしい『支那奇談集 第二編』の「尾生の信」を見て置こう。3頁ある「目次」に拠れば58篇を収めるが、その43番め、3頁上段5行めに「尾生の信 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥二二九」とある。 229~231頁「 尾 生 の 信 *1」、題は3行取り4字…

芥川龍之介「尾生の信」(1)

・岩波文庫31-070-15『蜜柑・尾生の信 他十八篇』2017年5月16日 第1刷発行・定価600円・221頁*1 蜜柑・尾生の信 他十八篇 (岩波文庫)作者:芥川 竜之介岩波書店Amazon 仮に岩波文庫の書影を挙げたけれども、岩波文庫は著者名を「芥川竜之介」としているので…

池内紀『昭和の青春 播磨を想う』(2)

それでは本書の主体を成す短篇連作「昭和の青春」の細目を、仮に【番号】を附し、題、(頁)、掲載号、主人公と主要人物、舞台となっている場所、さらに序でとして取り上げられている昭和の事物をメモして置こう。 【1】モクモク号走る(6~15頁)1997年春号…

奥野健男『文学における原風景』(1)

本書の書影は既に3月15日付「奥野健男『北杜夫の文学世界』(5)」に貼付して置いた。 ・『文学における原風景』一九七二年四月 十五 日 初版印刷・一九七二年四月二十五日 初版発行・定価 九八〇円・集英社・226頁・四六判上製本 私の見た本にはカバーが掛…

奥野健男『北杜夫の文学世界』(2)

昨日の続きで①単行本と②文庫版の比較。 ①の見返し(遊紙)は緑色、同じ厚みのベージュ色の扉、上部にカバー表紙と同じ明朝体横組みの標題と著者名が、縮小されてやや下に入っている。最下部中央の版元名は同じ大きさ・位置。やはりカバー表紙と同じ柄が黄土…

「木曾の旅人」と「蓮華温泉の怪話」拾遺(167)

・青木純二原作映画『地獄の唄』(2) 念のため、「日活」HPでも確認して見た。 ・「地獄の唄 前篇」 地獄の唄 前篇 (じごくのうた1) 都新聞懸賞連載小説を映画化したもので、新入社の根岸東一郎、辻峯子を主役とし、「大地は微笑む」の合同監督の後に…

阿知波五郎「墓」(27)

さて、当ブログは、飽くまでも確認作業ノートで、普通なら公開しないところまで示して置こうと云う意図でやっておりますので、非常に読みづらく、脇道にも逸れますし(しかしその場で書いて置かないと忘れてしまう)過去記事に書いたことを忘れて繰り返すよ…

阿知波五郎「墓」(26)

・「七月二十五日。」条と結末 438頁12行め~440頁2行め、7日め「七月二十五日。」条、これが最後の日付である。前半、438頁13行めから439頁6行めまでを抜いて置こう。 いよいよ七日目だ。却ってもう飢を感じない。手も足も水ぶくれになって腫れ上ってくる。…

阿知波五郎「墓」(25)

・「七月二十四日。」条(2)呪いから痩せ我慢へ 434頁17行め~436頁1行めまで、20行に及ぶ遺書の一節は、 『渋谷さん、今日も一日中あなたのことを思いつめて居るのよ。どんなにおなかが空いて居ても、あ【434】なたのことを思えば不思議にその苦しみがな…

阿知波五郎「墓」(24)

・「七月二十四日。」条(1)遺書の意図 遺書を書き始めるまでの確認が随分長くなってしまったが、ここまで、主人公はまづ、2日めと3日めには里子に出した園児と、その園児を園に戻したことで起こった火災を回想し、それから、空腹は3日めから、4日めには1…

阿知波五郎「墓」(23)

・「七月二十三日。」条(4)遺書執筆開始 昨日は、5日め「七月二十三日。」条の3段落めの中盤を確認するだけで終わってしまった。当ブログは結論を述べると云うより確認作業ノートみたいなものだから、往々にして全く進まなくなり、そのうちに飽きるか本の…

阿知波五郎「墓」(22)

・「七月二十三日。」条(3)密室の時間と照明 昨日の続きで、5日め「七月二十三日。」条の3段落めの中盤。430頁1~3行め、 (略)。折角覚えて居た/日も記憶の中で戸迷い、腕時計が停まって居るが、そのねじを巻く元気もない。うつら、うつら……そ/してそ…

阿知波五郎「墓」(21)

職場の玄関では、体温をセンサーで測っている。私はこのところ36.0℃くらいで安定しているので、もちろん引っ掛からない。しかし無症状や発症前、つまり発熱していない人が広めてしまうらしいのに、せっせと検温ばかりしていることに、どれだけ意味があるのか…

阿知波五郎「墓」(20)

昨日の続き。 ・「七月二十三日。」条(1)鼠の正しさと学者の愚 前日は雨で涼しかったせいか、キャラメルの存在を思い出した以外は無気力に過ごしていた主人公だったが、5日めのこの日は、初めから感情を爆発させている。――日付も含めて23行だった前日に対…

阿知波五郎「墓」(19)

大学が再開になったのか、それとも入構規制が解かれて登校出来るようになったからなのか、大学生が連れ立って歩くようになった。あんなに「密です」とか云って脅して自粛させたのに、掌を返したように野放しである。 昨日が都内の図書館の返却期限であったが…

阿知波五郎「墓」(18)

昨日の続き。 何だか1日ずつ確認するような按配になってしまった。 どうも、この小説、細かく見て行くとおかしなところが次々と出て来るようである。 6月14日付(16)の最後に指摘した、「今日も今日」のような瑣事もあるけれども、もう少しややこしいものも…

阿知波五郎「墓」(17)

昨日の続き。 次いで6月12日付(14)に引いた3日め「七月二十一日。」条の冒頭の「渇にたえられぬまま」水を飲む場面があり、そして初めて、何でこんなことを計画したのかが、説明される。続きを抜いて置こう。425頁2~11行め、 野球のボールが書庫の壁に当…