瑣事加減

2019年1月27日ダイアリーから移行。過去記事に文字化けがあります(徐々に修正中)。

小説の設定

阿知波五郎「墓」(4)

それでは、阿知波五郎「墓」の内容について、鮎川哲也『こんな探偵小説を読みたい』所収本文(414〜440頁)をもとに確認して置きましょう。 415頁5行め。主人公の「しまは青葉保育園の保母である」。 414頁7行め、舞台は「M大学附属、文化研究所の書庫」で…

阿知波五郎「墓」(3)

昨日の続きで、鮎川哲也『こんな探偵小説が読みたい』に見える、阿知波五郎「墓」をアンソロジーに収録するのを断念した一件について、見て置きましょう。404頁5〜8行め、 この「墓」(楢木重太郎名義)という短編を(氏の創作はすべてが短編なのだが)、わた…

阿知波五郎「墓」(2)

昨日の続き。 さて、鮎川哲也『こんな探偵小説が読みたい』の、カバー表紙折返しの上部にある、明朝体横組みの紹介文には、次のようにあります。 夏季休暇を翌日に控えた大学図書館で、ひ/とりの女性が書庫に閉じ込められた! 鉄と/コンクリートで固められ…

阿知波五郎「墓」(1)

これも主題は9月23日付「「ヒカルさん」の絵(02)」から一貫して同じです。いえ、以前からこの小説には注意していて、10月1日付「閉じ込められた女子学生(1)」に引いた日本文学芸術学部写真学科の話に気付いたことで記事に出来そうだと思い、そして、掲…

山本禾太郎「東太郎の日記」(35)

昨日の続き。 日記の10日め、作者をモデルとする主人公「山木東太郎」が女主人公「おふくさん」と再会したのが大正7年(1918)秋か冬頃のこととして、10月30日付(22)で見た日記の11日めは「おふくさんと伏見の停留所で別れてからすでに二年になる。」との…

山本禾太郎「東太郎の日記」(34)

12月8日付「山本禾太郎「第四の椅子」(21)」に予告した関田一喜の経歴についての記事を準備しようと思っているのですが、なかなか調べに出られません。記事の難読箇所や振仮名の確認も出来ていないままです。 そこで久し振りに「東太郎の日記」に戻って、…

山本禾太郎「東太郎の日記」(25)童貞

昨日の続き。 作中には時期を窺わせる記述は殆どありません。時事も全く扱われていません。 10月20日付(12)本文②、日記の1日めは、冒頭に登場する紳士風の男の台詞、「おかみ、僕はネ、白い絽の羽織に黒い紋をつけて、夏の式服にしていたんだが、昨夜高砂…

山本禾太郎「東太郎の日記」(24)結婚

昨日の続き。 さて、主人公山木東太郎に、山本禾太郎こと本名山本種太郎の体験した「事実」が色濃く投影されているとするならば、本作は不明瞭な山本氏の前半生を窺わせる資料として、もちろん「小説」ですから全てを全くの「事実」と単純に捉える訳には行き…

山本禾太郎「東太郎の日記」(23)

昨日まで12回に分けて本文を紹介しました。 探偵小説ではありませんから、本作と若干の未収録作品のために新たに論創ミステリ叢書『山本禾太郎探偵小説選Ⅲ』が編まれるようなことは、恐らく望めないでしょう。10月13日付(06)に述べたように本文の売込み(…

山本禾太郎「東太郎の日記」(22)本文⑫完

日記の11日め。【 34 】頁上段18行めから下段7行めまで。 下段の余白、下部に四角いお盆の上に桃を3つ盛った六角形の陶器の鉢に陶器の水差しが載っているカットがあります。 今回新たに新字で代用した漢字は「娯」です。 ×月×日 おふくさんと伏見の停留所で…

山本禾太郎「東太郎の日記」(21)本文⑪

日記の10日め。【 29 】頁上段10行めから【 34 】頁上段17行めまで。 【 29 】頁下段は3行めまでで、残りは挿絵で、10月27日付(19)本文⑨、日記の8日めの前半、真っ暗な中で2人が並んで正座して、おふくさんが東太郎の右肩に左手を掛け、東太郎の左手がおふ…

山本禾太郎「東太郎の日記」(20)本文⑩

日記の9日め。【 28 】頁下段5行めから【 29 】頁上段9行めまで。 今回新たに新字で代用した漢字は「並・述・寛・雪」です*1。 ×月×日 今日は四五日前から決まつてゐた圓八君夫婦の退座の日だ。これは主/として圓八君の希望によるもので、圓八君はおふくさ…

山本禾太郎「東太郎の日記」(19)本文⑨

日記の8日め。【 27 】頁下段11行めから【 28 】頁下段4行めまで。 28頁上段12行めまでの字数が少ないのは、この頁の右上に階段を描いた挿絵があるからで、床に届こうという暖簾により階段の先は隠れています。暖簾は「江ん」つまり「××さん江」の下部が描か…

山本禾太郎「東太郎の日記」(18)本文⑧

日記の7日め。【 27 】頁上段11行めから下段10行めまで。 今回新たに新字で代用した漢字は「望」です。 ×月×日 今日二時間ばかり自分の部屋にゐたおふくさんは、いろ/\と身の上/話をした。*1 若州の小濱近在の生れださうな、父母もなければ兄弟もない。浪…

山本禾太郎「東太郎の日記」(17)本文⑦

日記の6日め。【 25 】頁下段18行めから【 27 】頁上段10行めまで。 【 26 】頁の上下段とも6行と行数が少ないのは、左側に、おふくさんが旅館の薄暗い廊下を自室へ戻って行く場面が描かれているからです*1。右上に [哲] 印(1.0×0.6cm)があります。これは2…

山本禾太郎「東太郎の日記」(16)本文⑥

日記の5日め。【 25 】頁上段4行めから【 25 】頁下段17行めまで。 今回新たに新字で代用した漢字は「脱・煙・喫・嘘」です*1。 ×月×日 今日から〃曾我兄弟〃の改作だ。大圓氏自筆のネタ本を見ると、頼朝/のことを〃ヨリ友〃なぞ隨所にヘンなことが書いてあ…

山本禾太郎「東太郎の日記」(15)本文⑤

日記の4日め。【 21 】頁上段10行めから【 25 】頁上段3行めまで。 【 22 】頁と【 23 】頁は見開きの挿絵で、10月21日付(14)本文④に示した日記の3日め、楽屋で京山大圓が圓八・おふく夫婦と対面する場面でしょう。【 22 】頁、姿見の前に立って弟子たちに…

山本禾太郎「東太郎の日記」(14)本文④

日記の3日め。【 19 】頁上段2行めから【 21 】頁上段9行めまで。 要領はこれまでに示した通りで、新字で代用した漢字は「習・記・墨・浮・掻・産・寝・騒・絶」です*1。 ×月×日 大圓氏はいつも旅館へ床屋へ招いて調髪する習慣だのに、けふは珍ら/しく床屋…

山本禾太郎「東太郎の日記」(13)本文③

日記の2日め、【 15 】頁上段14行めから【 19 】頁上段1行めまで。【 16 】頁と【 17 】頁の下段は挿絵で、並べた座布団の上に腹這いになって巻紙に何か書き始めようとしている男性。 入力の要領は前回示した通りです。新字で代用した漢字は、前回に示したも…

山本禾太郎「東太郎の日記」(12)本文②

それでは日記の1日めの本文を紹介します。【 13 】頁上段4行めから【 15 】頁上段13行めまで。 用字はなるべくそのままにしようと思ったのですが、表示不可能な文字及び外字の一部は検索の便宜を考えて新字にしました。順に「羽・黒・急・縁・者・節・説・要…

山本禾太郎「東太郎の日記」(11)本文①

10月16日付(09)の続き。 まず、10月15日付(08)に見た、昭和9年(1934)1月1日発行の「週刊朝日」新年特別号(第25巻第1号)について、若干の補足をして置きましょう。 【 223 】頁は太い破線で囲われた「編輯後記」は、5段組で収録作品や企画について編…

山本禾太郎『抱茗荷の説』(09)

昨日の続きで、細川涼一「小笛事件と山本禾太郎」に示される「抱茗荷の説」梗概が「‥‥田所君子という娘が、八歳まで育ててくれた祖母の死後、流れ流れてふたご池のほとりにある豪家(実は母の実家)に女中として雇われるという因縁譚」としていることについ…

山本禾太郎『抱茗荷の説』(08)

9月27日付(02)に、単行本『抱茗荷の説』を「実見しての記事」は「ネット上に‥‥見当たらないのです」と書いたのですが、 ゆーた @latteteddy 2014年5月22日 『論創ミステリ叢書15 山本禾太郎探偵小説選Ⅱ』の解題で「黒子」を〝単行本に収録されるのは今回が…

山本禾太郎『抱茗荷の説』(07)

それでは9月30日付(05)の続きで、細川涼一「小笛事件と山本禾太郎」に示されている「抱茗荷の説」梗概の疑問点について、確認して置きましょう。例によって「抱茗荷の説」の引用は、論争ミステリ叢書15『山本禾太郎探偵小説選Ⅱ』に拠ります。 主人公の両親…

山本禾太郎『抱茗荷の説』(06)

主人公田所君子の母は双生児の姉娘です。昨日示した記述からも明らかでしょう。 何故、こんなにも明瞭に記述されているのに、山下氏・細川氏は取り違えてしまったのでしょうか。 これは、9月28日付(03)の最後に触れたように「ラストシーン、最後の一文」で…

山本禾太郎『抱茗荷の説』(5)

もう少し、ネタばらしにならない形で本作の設定を確認して置きましょう。 それというのも、8月31日付「山本禾太郎『小笛事件』(1)」に書影を示した『京都の女性史』に収録されている(147〜182頁)細川涼一「小笛事件と山本禾太郎」の最後の節、173頁11行…

山本禾太郎『抱茗荷の説』(4)

昨日の記事の末尾、梗概の改定案に山下氏の「復讐のため」と云う表現をそのまま使い回していましたが、読み直すうちに「復讐」が目的であれば、幼い娘を同行させる必要はなかったろう、と思えて来ました。以下「抱茗荷の説」の引用は論創ミステリ叢書15『山…

山本禾太郎『抱茗荷の説』(3)

昨日の記事に対し思いがけず、芳林文庫より矢作京一(1912〜1983)『蔦の家殺人事件』を購求した方からコメントがありました。私は、矢作氏については「小林文庫の新ゲストブック」で初めて知ったくらいで、全くどうしようもないのですが、山下氏の蔵書散逸…

森鴎外『雁』の年齢など(2)

2011年1月1日付(1)に言及した高峰秀子主演の映画がDVDになっていた。その少し前には若尾文子主演の映画もDVDになっている。 ・高峰秀子主演 昭和28年(1953)9月15日公開 監督 豊田四郎(1906.1.3〜1977.11.13)雁 (1953) [DVD]出版社/メーカー: KADOKAWA…

川端康成『古都』(12)

一昨日からの続き。 ・時期(4)昭和35年4月 それはともかく、どうしてこんなことになったのだろうと思って、一番詳しい川端氏の伝記である小谷野敦『川端康成伝 ――双面の人』(2013年5月25日初版発行・定価3000円・中央公論新社・650頁)を見た。川端康成…